trance of Life〜ナギ〜

□Forewode・Life
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 なぜなら、
抜け道を知っているのはデリート・タウンの監守を行っている下っ端の兵士のみのであり、
3人のような上級クラスの士官が目に触れることは一切なく、
たとえ道が分かっていたとしても、
二人の怪我の状態では歩いて抜け出すのはもとより無理な話だ。

『私は・・・
絶対にお前たちを見捨てたりしない!!』

『・・・』
 
 それでも一歩も引かない少女を見て、
今まで黙っていた騎士の一人が口を開いた。
なら一つ提案がある、と。

 『古寺を探せ、
 そこに金盞花の装飾を施した長剣をもつ男が いるはずだ。
 きっと力になってくれる』 

 『古寺の・・・金盞花の長剣』

 少女は口のなかで復唱し、
分かったと立ち上がった。
提案をした方の騎士が少女に問いかける。

『なぁ、
もしみんなで無事に出ることができたらさ』

『何を云っている。
そうに決まっているだろう』
 
 少し歯切れが悪そうに云う騎士に
少女は何を云っているんだと優しい目で答える。

『・・・そうだな』
 
 頼んだ。
 
 それだけ聞くと、
少女はデリート・タウンの真っただ中に走り去っていった。
 
 少女の姿が見えなくなった頃、
残された男性騎士二人は痛む傷を抑えながらひそひそと話始めた。

『何だよ、お前まだ告ってなかったのかよ』
 
 提案を出した方の騎士をもう一方の騎士が
ちゃかす。

 『うるせーな。
 負けたくなかったんだよ』

 勝負する相手が最初から手強すぎるんだよ。と適格な事を云われれば、
 まぁなとつぶやいた。

『それでも好きだったんだよ・・・』

 今となっては遠すぎる空を見上げ、
空気が悪くて昼間かどうかもわかりゃしねぇ
と、薄く笑った。
 
 そして、
そんな話をされていることなど知らない少女はただ仲間の言葉だけを信じ、
時折携帯食料をかじりながら
デリート・タウンを走りまわった。
 
 最中、
ならず者達に襲われながらも闘志を振り乱し続け、
無我夢中で古寺を探し続けたが、
気を緩めることができないこの地で睡眠もろくにとれるはずもなく、
体力の回復が追い付かない。

 その結果、
身につけた護身術も鍛え上げた剣術も
疲労と苦渋に蝕まれ、
日に日に意味をなさなくなっていた。

『それ、
 なんのお宝だい・・・?』

『!!!』
 
 そしてとうとう突然襲ってきたならず者達の手によって
‘貴’の者の証である指輪を盗まれてしまったのだ。
ガンドレットをしていたため指輪はペンダントとして首から下げていた。
指輪の意味を知る者達が
こぞって少女から奪い取っていったのだ。 
 
 思い出すだけで悔しさがこみ上げてくる。
なすすべなく、
少女は藁にもすがる気持ちでやっとここにたどりついたのだ。 

 
 「都合のいい話だとはわかっている。
だが、
・・・助けてほしい」 

 頼れるのは貴方だけなんだ。
と、溢れ出してくる涙をこらえて
再び頭を下げると男はため息をついて足を組みなおした。
 
「あのさ、
なんでそんな必死なの?
そこまでして何を維持したいわけ?」。
 
 地位か?
と、尋ねる男に少女は首をふった。 

「私はただ仲間と共に故郷に帰り、
そしてカキア様の恩に報いたい。
ただそれだけだ」

「カキア様・・・?
 あー陛下様」 

「知っているのか?」
 
「国に放棄された奴は
進展していく世の中に無知だと?」 
 
「いや、
そんなつもりで云ったわけでは・・・」
 
 口ごもる少女のなりを改めて観察する。
破れた袖にいくつもの細かい切り傷に無数の痣。
足の付け根付近に巻かれた布からは、
出血だけではなく化膿しているのもよくわかる。
若い娘にしてはあまりにもひどいありさまだった。
 
「で、何くれんの?」
 
「は?」
 
「報酬だよ。
まさか、
ただでやってもれえるとでも思ったわけ?」
 
 引き受けてくれるのか。
少女は面食らったようすで男の顔をまじまじと見つめる。
今更だが、端正な顔立ちをしていると思った。気づかなかった。
それくらい追い込まれていたのだろうか。
そして、
この男の一言でこうも安心できるなど自分でも信じられなかった。 
 
「じゃ、
あんたの名前(ネーム)をもらおうか」 

 関心に浸っていると、とんでもないことを云われた。
驚いたままでいると男は当然のように云ってきた。
 
「何まぬけな顔してんだよ。
この世界で唯一、
貨幣でもあり最も価値のある代物だろ?」
 
 男の云っていることは確かに正しい。
しかも少女の‘名’は二番目に値が張る‘貴’の‘名’だ。
商売人にとってこんなおいしい話はない。
だが・・・ 
 
 断る。
即座に云おうとしたが喉元にとどめておく。
反論するのは目的を果たしてからでも遅くはない。
重要なのは、‘名’の証明だ。
取り上げたとしても証明するものがなければもっていても意味がない。
今優先すべきことは自分を証明する指輪を取り戻すこと。
そう決心し、己の‘名’を云う・
 
「凪(ナギ)だ」
 
 男の目を真っ直ぐ見て云ってやったが、
本人は驚くのではなく喜ぶのでもなく・・・
嫌な顔をした。 
 
「・・・なんだそのだっさいネーム」
 
「何!?」
 
「そんなネーム欲しかないね。
二つ(スペ)名(ル)は」 
 
「それが‘スペル’だ!!私に‘ネーム’は無い!!!!」
 
 ださいとはなんだ。
と、くってかかったが、
男は軽くあしらっただけで今度はさっきよりも深いため息をついた。
やってられない。
そんな表情だ。
 
「ついでに、誰にもらったんだそのスペル」 
 
「なぜ教える必要がある」
 
「いいから答えろ」
 
 男の命令口調に嫌気はさしたが少女は
しぶしぶ口を開いた。

「・・・カキア様だ」
 
 ぶっきらぼうに答えてやったが男は対して気にすることなく、
ふーん。と、
 一人で納得したように立ち上がった。
 
「まぁなんだ・・・同情するぜ?」
 
 それだけ云うと傍らに置いてあった金盞花の長剣を背負い
出口に向かって歩きだした。
少女はというと、
最後の言葉が聞き取れず突然の男の行動に狼狽えていた。
 
「まぁ待ってろ、
あんたの物を取り上げた奴らなら大体目星がついてる」
 
 仲間はそれからだ。
と、背を向ける男に少女は問いかけた。  
 
「何故わかる?」    

「勘だ勘。
あーそこら辺いじってくれるなよ。
早くて数時間、最悪で明日の日没だな」
 
「私も一緒に・・・」
 
「だめだ。寝てろ」
 
 ついて来ようとする少女を言葉で制して一人外へとでると、
目の前にありえない光景が広がっていた。
 
「よぉ・・・用心棒の兄ちゃん。
俺たちゃ今探しものをしてんだ、
ちょいと協力してはくれねぇか?」
 
「何?
こんなむさい出迎え頼んだ覚え無いんだけど?」
 
 うげぇっと目を細くした男の前には、
デリート・タウンを寝床にしている盗賊たちだった。
ざっと二、三十人。
こんな狭くてぐちゃぐちゃしたゴミ集積所のような所に、この人数は定員オーバーだ。
 
「あー丁度いい。あんたらのお頭に話があんだわ、三十秒やるから連れてこい」
 
 そんな言葉を漂々と言ってのける男だが、
盗賊たちは特に野次を飛ばすこともなく、
ただ、くくく。
と、笑っただけで
男の云ったことに従う気配は全くない。
 
「何だ、何があったのか?」
 
 外のようすに違和感を覚えた少女は
男の脇を潜り抜け、外に出ようとする。
男は少女をひっこませようとするが一足遅く、盗賊の一人が声を上げた。
 
「おやぁ〜?
お嬢ちゃん。
久しぶりぃ〜やっぱりここにいやがったなぁ」
 
「?」
 
 少女は群がる集団の中から、
一人自分に手を振る盗賊を見据え、
記憶を辿る。
 しかし、彼らならず者の顔など、
この一週間腐るほど見てきたため
いちいち覚えてなどいない。
 
 少女の不審な表情が変わらないことに、
そのならず者は怪しげな笑みを浮かべ、
しびれを切らしたのか
決定的な追い打ちをかけてきた。
 
「ほらぁ〜
嬢ちゃんがお宝を譲ってくれた相手だよぉお!!」
 
 少女の目に一瞬で怒りがともる。
自分から指輪を取り去った張本人、自由を奪われ、
身動きが出来ない自分から指輪をはぎ取っていったあの憎たらしい顔が
一瞬で脳裏に現れた。
 
「貴様っ!!あの時の!!!!」

「下がってろ」
 
「しかし・・・」
 
 少女の前に出て行く手を制すが、
すかさず盗賊の一人があるものを高々と持ち上げた。
 
「俺たちはさぁ〜
別にひどいことをしたい訳じゃねぇ。
でも食い物がないとイラついてしょうがねぇ・・・」
 
「!!!!」

 

 『なぁ、もしみんなで無事に出ることが                
               できたらさ』
 


 持ち上げられたそれを見て、
少女は目を開き絶句する。
 
ありえないものが目に映ったからだ。

「なぁお嬢ちゃん。おとなしく
‘お友達と同じ姿’になっちゃくれねぇか?」

 少女の表情が変わったことに、
にぃっと口角をあげた盗賊は興奮気味な口調になった。
 
       


 『何を云っている。そうに決まっている
                  だろう』

 

 
 それは、
自分に生きる希望を託し
助けを待っていた仲間の首だった。
 
      

      『・・・そうだな』



「貴様ぁぁぁああああああっっっっっっ!!!!!!!!」
 
 許さないっ!!
許さないっっ!!!
コイツだけは、
許さないっっっ!!!!!!

 あの時痛みに堪えながらも
笑って送り出してくれた彼らを思いだし、
少女の感情は怒りから殺意に変わる。

 「はぁああっっ!!!!」
 
 少女は
男の背中に背負われていた長剣を鞘に入ったまま振り下ろすと、
敵地に踏み込んだ。
しかし・・・
 
「!!何をっ」
 
「寝てろっつたろ?」
 
 どすっと鈍い音がすると
少女の体は簡単に崩れ、男の腕の中におさまった。
 
「お〜兄ちゃん紳士だねぇ」
 
 ケタケタと騒ぎたてる盗賊たちを尻目に、
男は抱えた少女を古寺の縁側へと横たわらせた。
そして盗賊たちへと向き直ると肩をぐるんとまわし、
少女が手にした長剣を握りなおす。
 
「兄ちゃんじゃねーよ」
 
 男は鞘から長剣を抜きとると大きく構えた。空気がぴりぴりと振動する

   「俺の名は・・・名偽(ナギ)だ」        

          

         
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