男主.w
□九品目
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「客いねーなぁ」
「一段と冷えてるし、雪も降ってるみたいだから今日一日はこんな調子かもね?日も傾いてきたし」
お昼時を過ぎたワグナリア。
天気予報は見事に外れてしまい、晴れのはずが予想外に気温は低くなり雪も降っていた。
こんな時にファミレスに来る客もいなく、フロアは客が一人もいない状態で、そうなれば必然的にキッチンの仕事もなくなり手持ち無沙汰な状態だった。
「そういえばこの後霧島君出勤の筈だったよね?」
「そういえばそうだったな。これ以上増えても今日一日何もやることもなさそうだが」
最近の霧島と言えばキッチンの仕事もすっかり板につき、相馬がいなくても霧島がいれば厨房が回るといった具合に助かっている。
そして随分俺らとも親しくなったのは良いが厨房に入ったというのが祟ってか、仕事の回転率は上がったが性格的には相馬が二人に増えたような感覚となりストレスも日に日に溜まっている
そんな中不意に来店を知らせるチャイムが鳴り、伊波がフロアへと向かった。
「いらっしゃいま……っきゃぁあ!!」
ドカッ ガタァン!!!
突如響いたのは伊波の叫び声と大きな物音。
今まで何とか男性客を殴ることを避けていたようだが、ついに手が出てしまったらしい
物音がした方向へと顔を向けると、そこにいたのはひたすら頭を下げる伊波と頬をおさえて机を支えにして立っている霧島だった。
「あれ霧島君?何で正面から入ってきてるんだろ……」
「というよりも伊波の攻撃まともに喰らってるな。調子悪いのか?」
霧島がワグナリアでバイトを始めた日から伊波に殴られているところを見たことがない。殴られていても攻撃を上手く受け流しているのでその後小鳥遊か相馬が殴られるというのがお決まりのパターンだった。
しかし今日はまともに攻撃を喰らっている上、派手に吹っ飛んでいる辺り霧島はどこか体調が悪いのだろうか
すると物音を聞きつけた小鳥遊と山田が駆け付け、二人の姿をとらえた途端びっくりしたように慌て始めた。
「ちょっと霧島さん何でそんなにずぶ濡れなんですか!!雪だって降ってるのに風邪ひきますよ!?」
「いや、今日は色々ついてなくて…あー寒い、」
「早く着替えてください!じゃないと本当に風邪ひきますよ!!」
「唇が紫です……山田、タオル持ってきますね!!」
「俺濡れてばっかだなー」
バタバタとした後、裏に走って行く小鳥遊と山田の後について行く霧島は本当にずぶ濡れで、髪には雪もついていたほどだ。
キッチンの横を通り過ぎる際苦笑いを向けてきた霧島だったが、その顔は少し引きつっていて唇も真っ青だった。
「そういえば霧島君がバイト始めたきっかけになった日も伊波さんに殴られてたよね」
「あいつって結構どんくさいよな」
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