男主.w

□八品目
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「ねぇ佐藤君、さっき杏子さんにパフェ作ってあげたんだけどね、パフェ食べてる時の杏子さんの顔がすっごく可愛かったの!!あ、もちろんいつもの杏子さんも可愛くてかっこいいんだけどね、やっぱりいつにも増して可愛くて!!それでね、次はしょっぱいものが食べたいって杏子さんがね、佐藤君は何がいいと思う?私はね……、佐藤君?聞いてる?」

「……。」






昼休憩が終わり、キッチンに戻ってみるとそこには幸せオーラ全開で佐藤君に惚気まくる八千代ちゃんと、全体に不機嫌オーラをまとう佐藤君の姿だった。

八千代ちゃんは何かと佐藤君に店長の惚気を語りまくるのだが、何やら今日は一段と饒舌な様だ。
恐らく俺が休憩に行っていた間ずっとこの調子なのだろう、佐藤君の手元にはストレスを発散するかのように切り続けたキャベツの千切りが山盛りになっていた。







「おー八千代ちゃんいつにも増して幸せオーラ全開だね、佐藤君の機嫌は急降下してるし。なんかあった?」

「あー、霧島君!!休憩終わったんだね〜!!」

「……あんたが機嫌がいい時はあんまり関わりたくねぇ」

「え、なんで!?酷い!!」

「あんたが幸せそうなときはどうせろくでもないこと考えてる時ぐらいしかないだろうが」








相馬がこう嬉しそうにしている時っていうのは絡むとろくでもないことに巻き込まれるので、自分の持ち場に戻って仕込みを始める。

すると懲りずに後ろから相馬が"でもさー……霧島君も思わない?"と声をかけてくるので鬱陶しさのあまりあしらうように"何が?"というと"やっぱり気になる?だよねー、あのさ"と満面の笑み…というよりもにやけながら話し始めた。…あー、やっぱりかかわるんじゃなかった。







「あのさ、昨日音尾さんが帰ってきたんだよね。」

「昨日?また何で。てか一日でまたどっか行ったわけ?」

「なんか近くに寄ったみたいで。すぐ帰っちゃったけどその間なんかお店の事について話してたみたいなんだよね〜」

「良く店長が黙って話聞けたよな、お土産か?」

「ご名答。お店の経営の事について話してたみたいなんだけど、その間ずっと店長の事独占してたみたいだったから轟さんもストレスだったみたいで」

「…その反動か。」

「そうなんだよ!!佐藤君もさ、いつにも増して惚気まくる轟さんに冷たくしちゃうと一緒にいられる時間減っちゃうし何より轟さんがあんなに幸せそうな表情してるし大きく出れないところがヘタレだよね!!」


「ややこしい関係のあの二人に相馬が首を突っ込むから余計にこじれるんだろうが……」







こいつは何よりも人の不幸とか悩み事とか首を突っ込んではからかって面白がる性悪人間だ。

今も佐藤君の見事な報われなさを目をキラキラさせて語っている辺り…まあ、俺自身も佐藤君の事について"だけ"は意見が合致するというか、相馬ほどではないがあの見事な報われなさについては面白いと思う、が。








「まあ、綺麗な一方通行というか、報われない恋というか……好きな相手の八千代ちゃんが好きな杏子さんの話されてもストレスたまるわな…あれ、何言ってっかわかんね」

「三年間轟さんに片想いし続けてる佐藤君も大概しつこいと思うしむしろストーカー、あだ!」


「全部聞こえてんぞ、無駄話してねえで仕事しろ阿保」

「いってぇ!俺は相馬に巻き込まれただけで俺は悪くねえよ!」

「まってよ霧島君だけ逃げるわけ!?」

「霧島も途中から悪乗りしてたろ。俺はストーカーじゃねえ」

「あれ、気にしてたんだ…いだ!!いってもう言わないから!!いい加減俺の頭割れちゃうよ!!」








結局は二人して話に夢中になっていたら佐藤君の気配に気づかずあっけなく制裁をくらった。
避けることが出来なくもなかったが、あとで何倍返しになって帰ってくるかがわからなかったのでおとなしくくらっておいたのだった。

そうやって騒いでいると、八千代ちゃんが何やら悲しそうな表情をして佐藤に近づいてきた。
俺の視線で気づいたのか、二人も八千代ちゃんに目を向けるとか細い声で、俯き気味に佐藤君に話し始めた。








「ねぇ、佐藤君って、私の事、嫌いなの……?」








その言葉で佐藤君は硬直してしまい、八千代ちゃんの様子に酷く戸惑っているようだった。
一方相馬はというと、笑いをこらえるのに必死なようで……正直俺も、女心を分かっているつもりなのだがどこをどう勘違いすればそんな答えが出てくるのだろうか理解できない。
見るからに佐藤君は八千代ちゃんの事が好きだし、八千代ちゃんに対しては一番優しい態度で接している。

佐藤君はというと、動揺をなんとか表に出さないようにしているのだろうか腕を組んで、八千代ちゃんを見返していた。







「……急にどうした」

「だって、佐藤君私といてもあんまり楽しそうじゃないし、むしろいつも体調悪そうにしてるし……私、佐藤君に嫌われるのは、嫌なの……だから、佐藤君が嫌だって言うならあんまり近づかないようにするから……!」







八千代ちゃんは佐藤君の気持ちに鈍感すぎる。
佐藤君が奥手でヘタレなのも拍車をかけて思考が斜め上に働いてしまっていて、ここまでの天然はなかなかいない。

しかし俺にも悪戯心というものは少なからずあるので、佐藤君と八千代ちゃんには悪いとは思うけど我慢の限界が来てとうとう吹き出してしまった。咄嗟に手で口元を覆うが、隠しきれてはいないだろう。

しばらくの沈黙の末、佐藤君が出した答えは、







「……んな訳ねえだろ。おい、いつまでもサボってねえで仕事しろ」

「そ、そうよね、あたしったらまた変なこと言っちゃったわね!!ごめんなさい、ねえ佐藤君。これからもずっとお友達でいてくれる?」


「ああ、分かったから早く戻れ。」





……誤魔化しに出た様だった。
そして八千代ちゃんも"すっとお友達でいてくれる?"と佐藤君の心にとどめの一言を放った。しかも満面の笑みのおまけつきで。
佐藤君は轟さんの頭に手をやりくしゃくしゃと撫でていて、しかし力が結構入っているのか髪はぼさぼさになっていて、八千代ちゃん自身も痛がっているようだった。

佐藤君の顔は長い前髪で隠れて見えないけど、満面の笑みに照れていると思う。耳が真っ赤に染まっていて照れ隠しの意味も込めているのだろう

いろんな感情が落ち着いたのだろう、八千代ちゃんを解放したころには八千代ちゃんはヘロヘロになっていた。
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