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□名前で
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それは、ある昼下がりの事だった。


「よぉ、元気か?」


振り向くとそこに、銀時がいた。


「ちょっくら話があるんだ。面かせよ」

「ああ、いいぜ」


ちょうど暇だったって事もあって、その話ってやつに付き合ってやることにした。






「テメェ、いつまでここに潜伏するつもりなんだよ」

「…あ?」

「だーかーらー、いつまでここにいんのかって聞いてんの」

「……話ってのはそれだけか?」

「ああ、そんだけ」




…何だコイツ。
そんなこと聞くためにわざわざ声かけてきやがったのか?




「…ふっ、そいつァテメェには関係ねえ事だろうよ」

「関係はねえけど…」




「…そのうち発つ」

「行く宛決まってんのか?」



…しつけー奴。
テメェには関係ねえ事だっつってんだろ。



「…まだ決まっちゃいねえよ」

「…ふーん。そうかい」



聞いといて何だその態度。
興味がねえなら最初から聞かなきゃいいだろ。








しばらくの沈黙。







沈黙をつくったのはあいつ。

そして

沈黙を破ったのもあいつだった。







「俺ンとこ来ねえか?」


「……あ?」




思わず、目を見開いてしまった。
何言ってやがんだコイツは。




「馬鹿な事ぬかすんじゃねえよ銀時。何を企んでやがる?」

「別に何も企んじゃいねえよ。かくまってやろうかっつってんだ」



「ふっ、下手な嘘はよせよ。大体テメェ言ってた筈だぜ。俺に『次会ったら全力でぶった斬る』ってよ」

「……」


「…俺ァ帰らせてもらうぜ」

「あ…、おい高杉!…高」



付き合ってやるだけ時間の無駄だ。
さっさと帰ってやる。


俺が帰ろうと後ろを向くのと、奴が俺を呼び止めるのが同時だった。



「晋助!」


「…!」


思わず振り返り奴の顔を見てしまった。
いま確かに…名前で呼ばれた。


「……晋助」


銀時が繰り返すようにもう一度呼んだ。名前を。
その一言に一気に顔に熱が集まる。



「……っ!!」


カアアっと音が出たんじゃないかと思うほど赤面してしまい、とっさに顔を背けた。


「…っ、何だよ」


上手く平常を装って答えたつもりだった。


「高杉おめーさ…もしかして、突然名前で呼ばれて反応した?」


「!!」




図星だった。
何も言い返すことができなかった。




「…もう一度言うけど」


銀時は続けた。



「俺ンとこ来ねえか?」




「…行くわけねえだろ…アホ天パ!」



そう言い捨てて、俺は銀時の前から逃げるように歩き出した。

話の内容なんかより、今は名前で呼ばれた事で頭がいっぱいだった。






嫌だったとか、そういう事じゃねえんだ。
俺は…ただ、










−続く−

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