Sketchbook.
□どんな薬よりも
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…危なかった。
本当に危なかった。
リビングに逃げてくるのがあと少し遅かったら、きっと今頃彼女を襲っていた。
冗談抜きで今の状態のリリィは、これでも男のアタシにとっては十分凶器よ…。
「しかもあれで意識してないんだから余計にたち悪いわよね…」
変なところで鈍感な彼女に文句を垂れながらも、何だかんだ世話をしてやりたくなってしまうのは恋人への愛情か、はたまたそれとは別の感情か。
「病人に下心抱くなんて、アタシもまだまだね…さ、早く持っていってあげなくちゃ。」
自分で自分をたしなめると、温かいお粥と薬、水の入ったコップをお盆に乗せて彼女の部屋へと戻る。
「リリィー。薬持って…、疲れて寝ちゃったのね。」
部屋の扉を開けて中へ入れば、真っ先に見えるすやすやと眠るリリィの姿。
全身にうっすらと汗をかき、頬は熱でほんのり赤くなってはいるが、先程よりは呼吸は幾分か楽にできているように感じる。
「しかし…やっぱりこれは目に毒だわ…」
汗ばむ肌に荒い呼吸は嫌がおうでも男の本能を掻き立ててしまうもので、このままにしておけばそのうち必ず襲ってしまうし、何より薬を飲んでもらわなければならないため、可哀想だが仕方ないと思い彼女を起こす。
「リリィ。リリィ、薬とお粥持ってきたから少し起きて食べなさい。」
『ぅ…、ん…ぎゃ、りー…?』
「アタシはここにいるわ。だから…ほら、起きて。」
『ん…お腹、すいた…』
アタシが頭を撫でながら声をかければ、うっすらと目を開けて重たい上体をゆっくり持ち上げて起きる彼女。
まだ熱のせいでふらつくその背を、倒れてしまわないようにそっと支えてはタオルで汗を拭ってやる。
「お粥、食べられそう?」
『ん、今なら』
「そう、なら…はい。熱いから気を付けるのよ?」
『はぁい…いただきます、』
お腹が空いたと言う彼女に作ったお粥を小皿に分けて渡してやると、ゆっくりではあるがしっかりと食べていく。
食欲も戻ってきたようで、顔色も少し良くなってきている。
「(あとは薬を飲ませて少し寝ればすぐに良くなりそうね。)」
アタシはこのあと、薬を飲ませてる"だけ"なんて考えていた自分に後悔するだなんて、思ってもいなかった。
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