美術館

□第1話
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「では、こちらが当美術展のパンフレットでございます。ごゆっくりお楽しみくださいませ。」

『どうも、ありがとうございます。』



手短に受付を済ませパンフレットを受け取ると、銀灰色の瞳をあちこちに巡らせながら美術館を歩いて回る。

今日リリィは、とある芸術家の展覧会へ来ていた。



『ワイズ・ゲルテナ、かぁ…マイナーな美術家だって聞いてたから、正直あまり期待してなかったけど…来てみて正解だったかな。』


友達がいらないからとくれた今日の美術展のチケット。

ゲルテナなんて芸術家の名は聞いたことがなかった分、大したことはないのだろうと考えていたのだが、予想外にも独創的で個性的な美術品が並んでいて思ったより楽しめそうだった。



『("無個性"、か…これ、どういう意味なのかな…頭がないってことは、やっぱり頭がその人の個性だって考えたのかな…)』


今見ているのは、赤・青・黄色の服を着た3体の頭のない像。
題名は"無個性"らしい。

この像も独創的で見物だが、一階の一番最初のフロアにあった"深海の世"という絵画は特に見応えがあった。

あの色彩といい、世界観といい、今まで見てきた他の芸術家や美術家たちにはなかった存在感で、あの中に引き込まれてしまいそうだった。



また先程見た、"精神の具現化"というオブジェも素晴らしかった。

目に見えない人の精神というものを薔薇に例えたあの品には、思わず見とれて息を呑んだ。



このゲルテナという人は、持ち合わせている感覚や物事の捉え方が通常とは違う、なにか特別な力でも持っていそうな雰囲気さえ感じさせる、不思議な芸術家なんだろう。

だからこそ、数こそ少ないが熱狂的なファンがこうして鑑賞にくるのだろう。




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