短編

□死んでもいいよ。
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何かくらくらする…

何かくらくらするなぁ…

そんな気持ちの悪い気分に支配されながらも、

まぶたをそっと開くと、

そこは真っ白。

自分の目に真っ先に飛び込んできたものはというと、

真っ白。

真っ白な空間。

何だかよく分からなくて、とりあえず仰向けの状態から上半身を起こし、

しばらく目をぱちくりさせていると、

[やあやあ、そこのお兄さん。]

―と、後ろからそんな声がした。







死んでもいいよ。
作・太太郎k








驚いて、とっさに後ろを振り返ると、

やっぱりそこは真っ白。

―と、

そんな真っ白の中には、小さな少年がちょこんと座っていた。

[やあ、初めまして。]

その少年は、オレに向かって満面の笑みでそう言ってきた。

[………えと…]

あまりにもかわいらしい満面のその笑みに目が離せず、やっぱりその場でしばらく目をぱちくりさせていると、

[君は今非常に危ない状態にいますよ。]

その少年はやっぱり満面の笑みで、オレにそう言ってきた。

[………え…えっとなぁ…]

今まで感じたことのない意味が分からない感情に支配されてしまい、

やっぱりオレはただただ目をぱちくりさせることしかできなかった。

それを悟ってなのか、やっぱり少年は満面の笑みでオレに微笑みかけ続けた。

しばらく、経験したことのない沈黙が延々と続いた。

何か…気持ち悪いな。この感じ…。

そう思い始めた瞬間、オレにはばっと数々の疑問が沸き上がった。

……そうだっ!

[そういやここどこだよ!?]

予想以上に大きな声が出てしまったため、オレの体は大きくびくっと跳ねた。

それと同様に、少年も大きくびくっと跳ねた。

[うわぁっ…びっくりしたぁっ…。ちょっともう…驚かさないでくださいよ…。]

少年は目をしばらくぱちくりさせてから、こちらを少し睨んでそう言った。

睨まれてるんだろうけど…睨んでんのか?…それ。

[えっと、ごめんごめん。…って、そうじゃあなくてだな!]

またもや少年が大きくびくっと跳ねた。

ご…ごめんよ…。

[ここどこ!?]

真っ直ぐと少年の目を見つめてそう聞いた。

すると少年は、ああ、と頷き、またもやオレに満面の笑みを向けた。

うう…ま…眩しい…。

[どこと聞かれたら説明しずらいんですが…とにかく、今あなたは危ない状態に陥っているんです。]

[あ…危ない状態…?]

[はいっ!]

少年は、やっぱり満面の笑みで頷いた。

…いや、そこ笑顔で頷いて言うとこじゃなくね…?

[危ない状態って…つまり?]

オレはその満面の笑みにゆっくりと聞いた。

ごくりと自然に唾が喉を通った。

[ああ、それがですね!あなた死んだんですよ!]

[………え?]

[いや、だから死んだんですよ!]

[………え?………ん?]

[死んだんです!死!]

[………し?]

[そう!死!]

…し…し…し…し…死…死…

死!?

[ええっ!?オッオレ死んだの!?えっ…ええっ!?]

[はいっ!]

いや、だからそこ笑顔で頷くのほんとおかしいからっ!

[えっ…マジで…?]

[はいっ!]

[……あ、そう…。]

[―というのは半分冗談でして♪]

[……ええっ!?]

―いや、どっちだよ!?

[ははは。驚きました?]

―笑うな!マジで驚いたわ!てゆうか、結局どっちなんだよ!?

オレの心臓は激しくバクバク鳴っているというのに…

少年はというと、少年はというとだな…

―爆笑してやがるよっ!

[おいっ!笑うな!とゆうかオレはマジで死んだのか!?おい!]

[は…ははは…はぁはぁ…だぁから半分冗談ですってば。]

少年はひぃふぅとしばらく肩で息をし、ゆっくりとオレの目を真っ直ぐと見た。

[あなたは今、瀕死状態なんですよ。]

少年の大きな目からは、何だか少し邪悪なものを感じたような気がし、

オレは自然と少しぞっとしてしまった。

―というか、

―瀕死状態…!?

[えっ…?そっ、それって、どういう…]

[あなたはちょうど今さっき、交通事故にあったんですよ。]

[こ…交通事故…?]

………え?は?

[はい。そして今あなたは生きるか死ぬかの瀬戸際にいるんです。]

[生きる…か死ぬか…?]

え…?ええ……?

[はい。今あなたは、病院に運ばれて治療を受けてる最中でして…だから、まさに本当に生きるか死ぬかの瀬戸際なんです。]

[………。]

あぁ…ええっと…ええっと…ええっと…つまりぃ…たぶん…たぶんだなぁ…

[ええっと…つ、つまり、オレは死にかけてて、生かすか死なすかを今決めようとしてる…とか?]

頭を掻いて掻いて掻いて考えて考えた結果に辿り着いた答えは、

何だかあまりにも現実離れしすぎていて、そう言った自分が何だか今更恥ずかしくなってきた。

何だか恥ずかしくなり、しばらく俯いた。

[うぅん…まあ、合ってることは合ってますね。はい。]

少年は少し考えてから、やっぱり笑顔でそう言った。

[…てことは、もしかしてオマエは…その…神…とか?]

ほんとオレおかしなこと言ってるわぁ…うん。

現実離れしすぎだわぁ…うん。

[ふははっ!神ですかぁっ!ちょっと違いますねぇっ!]

少年はくくくっと静かに肩で笑った。

やっぱり…うん。

そうだよね…うん。

オレちょっとおかしなこと言ったよね…うん。

頭でも打ったのかなぁ…はは、うん。

[まあ、この場は、瀕死状態の者が必ず来る場所なんです。そして生か死かを決めるわけです。僕はここの管理者とでも言っておきましょうかね。]

少年はざっとそう説明してくれた。

ふぅん…てかオレ死にかけてんのか…

[ふうん、じゃあオレ`死´でいいよ。]

[…え?]

[いや、だから生か死か決めるんだろ?だったらもう`死´でいいよ。オレ。]

オレがざっとそう言うと、少年はしばらく目をぱちくりさせた。

そして、ああ、と理解したようにそう呟き、オレの目をゆっくりと真っ直ぐと見た。

[それがですね、僕が決めるわけではないんです。]

少年が言った言葉は、オレを驚かせ…

―って、

えっ…ええっ!?

[えっ…ええっ!?そっ、そうなの!?]

驚きすぎたため、やっぱりオレの声は大きかったらしく…少年はまたもや見事に今回も大きく跳ねた。

ご…ごめんよ…マジで…。

[…はっ、はい。僕が決めるのではなくてですね…]

少年はそう言ってから、ぱんっと一回手を叩いた。

[あなたの運が決めるんです。]

瞬間、少年の手元には箱が現れた。

[うっ…うおおっ!?どっから出したんだよっ…!?]

[この箱の上に丸い穴があるでしょう。ここに手を入れて紙を一枚引いてください。]

オレが驚いたのを完全無視で、少年はざっとそう説明した。

ちょっ…ちょっと…ひどい…。

―って、ん?

[…ってことは…もしかして…くじ引き…?]

まさかぁ、と思いながら、苦笑いで少年にそう尋ねた。

[あ、はい。そういうことですね!]

―ってぇ、そうなんかいっ!

[えっ、ええっ…なっ…何か超普通…]

別にがっかりしたわけじゃないけど…ないんだけどさぁ…

何かちょっとがっかり…だな。うん。

[ささっ、では引いてくださいっ!]

少年は満面の笑みでオレに箱を差し出してきた。

まっ、またその笑顔かぁっ…!

[ん。]

少年に言われた通り、オレはその箱に手を入れ、さっと一枚紙を引いた。

[どっちですか!?]

こっちを見つめる少年の目はやけにきらきらと輝いていて、声も突然やけにトーンが上がった。

何でコイツこんなに楽しそうなの…?

少年に冷たい目をかけつつ、折り畳まれた紙をぺりっと開けた。

[どっちですかっ!?]

少年のきらっきらな目をゆっくり真っ直ぐと見た。

冷たい目で。

[`死´。]

冷たい声でオレはそう言った。

[…っ!`死´…ですかっ!]

ゆっくりとそう言った少年の目は…目は…やっぱりきらきらと輝いていた。

―いや、だから何でだよっ!?

[何だよ。やっぱ結局`死´じゃんか。]

[おめでとうございます!お望み通りの結果でよかったですね!]

[………え、あ…ああ。]

だぁから、そこ笑顔で言うとこじゃないって!

何か苦笑いしかできないわぁ…ほんとに。

[―では、あなたは今から正式に死にます!手続きとかその他もろもろのことが多少ありますので、今しばらくお待ちくださいね!]

少年はぺらぺらっとそう言ってから、やっぱりにこぉっと満面の笑みでオレに微笑みかけた。

何か…何だろ…この複雑な気持ち…。

[まあ、別に死んでもいいけど。]

何だか体の力がふっと抜けて、オレの上半身は後ろに倒れた。

またもや仰向けの状態。

[死んでもいいんですか?]

少年はそう言って、仰向け状態のオレの顔をのぞきこんできた。

[うおっ!?]

[自分から`死´を選ぶだなんて…まだお若いのに…]

そう言ってきた少年の顔は心配そうなものだった。

そんな顔できんなら、何で今まであんなににこにこしてやがったんだよ、おい。

[別にオレ夢とかないし。]

[………でも]

[やりたいこととか一個もないんだよ。オレ。]

[………。]

[別に死んだっていいんだ。]

―そう、そうさ。

いつだってオレはそうだ。

いつだってオレはそうだった。

毎日毎日、生きてても別に楽しいとか思わなかったし、

このまま適当に生きて、適当に死んでくんだろうなんて思ってた。

いつ死んだってよかったんだ。別に。

だって、オレの将来に光なんて一切ないから。

適当に生きてるオレの将来なんか、ないのも同然なんだから。

小さい時から、趣味も夢も持たなく生きてきたオレなんか、

小さい時から、誰にも期待なんかされずに生きてきたオレなんか、

こんな、

こんな、

こんな、オレなんか―。

[…やっぱり、ダメです。]

[………?]

[やっぱり、あなたは死んではダメです!]

[………!?]

少年が突然オレに言った言葉は、オレを混乱させるだけのものだった。

[……!?は…!?]

[あなたはまだ死んでは…いえ、死ぬべき人間ではありませんっ!]

[……え!?]

[よって、あなたは生きる!]

[………はっ…はあっ!?]

オレはすかさず上半身を起こし、意味分からんことをほざきやがった少年の顔を見た。

少年の顔は、今までみたいににこにこ笑ってた顔なんかじゃなかった。

―真剣な顔。

少年の今の顔は、まさに`真剣な顔´そのものだった。

[…ちょっ…いっ、生きるって…さっきオレ`死´引いたから…そんなの無理だろっ…!?]

オレがあたふたそう言ったが、少年は顔色一つ変えない。

[別にいいんですっ!勝手にしますからっ!]

おいっ!

[おいおいおいおいっ!これじゃあ、さっきの説明と全然違うじゃねえかっ
!オマエは決めないっつったろ!?]

[別にそれはあんまし関係ないんですっ!一応そうしてるだけで…!]

おいっ!

おいおいっ!

意味分からんよっ!?

[まあ、何はともあれ、あなたは死にませんっ!はいっ!どうぞっ!]

―いや、

はいどうぞ、じゃねぇよっ!

意味分かんないからっ!マジで!

―つーか、

[オレ死んでもいいっつったじゃんかっ!]

オレは少年に向かって、大きな声でそう言った。

[オレは死んでもいいんだよっ!生きてても何にも意味なんかないし!死んでもいいんだ!]

そう、そうさ。

オレなんか、

オレなんか―。

[死んでもいいよっ!]

[ちょっとうるさいですっ!黙っててくださいっ!]

[………はぁっ!?]

[今あなたの手続きを行っているんですからっ!黙っててくださいっ!]

[………はっ…はあっ!?]

しかし、そんなことを言った少年はじっとしていて動いていない。

手続きをしているようには全然見えないんだが…!

[…はいっ!オッケー!終わりましたよ!]

―ってぇ、早いなぁ、おいっ!

[あなたは生きます。では、]

少年はそう言って、オレの顔を真っ直ぐと見た。

[これからの人生大いに楽しんでくださいね。]

少年はやっぱり、やっぱりにこぉっと満面の笑みでオレに微笑みかけた。

[………え……え?]

オレの頭は今ひどく混乱していた。

いっ…意味が分からんっ…!

―まあ、そんなのはここにいた時からだけどな…

[死んでもいい。そんなことを言うのは大変よくないことです!これから真剣に生きて、生きることの価値をきちんと知りなさい!]

[………え?]

[そのために、あなたを生かすんです。]

少年がもう一度微笑んだかと思うと、

オレの視界はそこで途切れた。
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