DRRR!! 小説用
□0話 プロローグ
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「怪我、してますよ」
公園のベンチに座っていた金髪の男、平和島静雄に話しかける女は周囲の目には異様な存在として映っていた。
まだ高校生といったところだろうか。綺麗な顔立ちながら、まだ大人になりきれていない幼さがある。
行き交う人々は少女の無知な行動に哀れみの視線を向ける。
平和島静雄は池袋の不穏分子。自動喧嘩人形とはよく言ったものなのだが、少女にはその事を知っている様子も恐れもなさそうだ。
一方静雄は目の前の少女の姿を見て、怪訝な表情を浮かべる。
煙草を吹かせるのをやめ、かけていたサングラスをずらすとはっきりと少女の顔を確認する事ができた。
紫色の鋭い瞳に見つめられている。一向に視線をそらさない。不思議と静雄もそらしてはいけないという感覚にとらわれる。
ふと我に返り確認し直す。知り合いでもなければ、喧嘩を売りにきたチンピラでもない。
頭の片隅にさえ少女の情報が一切存在しないその状況では、次に少女がとる行動など分かるはずもなかった。
少女はバックの中からハンカチを取り出すと、血が出ている静雄の右頬に軽く当てた。それから花柄の実に可愛らしい絆創膏を一枚取り出し丁寧に貼った。
驚くほどの手際の良さ、否躊躇いのなさに静雄が抱いたのは新たな疑問だった。
「……何の真似だ」
低い声音だがこれが静雄の元々の声なので、決して怒っているわけではない。
幸い静雄は今の状況に疑問しか抱いていないため、こめかみに青筋を立てたり骨の軋む音が聞こえてきたりなどは無論ない。
少女はさっきと全く変わらない顔つきでつぶやいた。
「血を見るのが嫌いなので。……それだけですよ」
静雄が目を見張る。気のせいだろうか? サングラス越しでは少女の顔が曇って見える。
サングラスを外してみたが、相変わらずの無表情だった。
「でも、失礼でしたね。……けどこれぐらいならすぐできると。そう思ったんです。変ですよね」
問いかけたが、返事も待たずにさらに続けた。
「あなたは目立つ。また会うかもしれませんね。それじゃあ」
最後に少女は軽く微笑んだ。ほんの一瞬。こんな顔もできるのか、と思ったときには少女の姿は人ごみに消えていた。
しかし少女の顔だけは頭の中から消える事はなかった。
今静雄はそれがどんな意味を持っているのか気付く事はないだろう。再び煙草に火をつけ2本目を吸いはじめる。
得体の知れない感情は、吐き出される煙のように心の中を漂い続ける。
いずれ形になるその時まで。