DRRR!! 小説用

□3話 情報屋、夜に嗤う
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一週間前 転校初日 夜






葎は家に帰るため、一人暗い通りを歩いていた。

明日から学校生活が始まると思うと吐き気に近い感情が湧いてきて、自然と足取りも重くなる。



――今度こそちゃんとやっていかないと。



ため息を吐いたとき、遠くのほうから何かが鳴くような声が聞こえてきた。耳を済ますと、その声ははっきりと脳内に響き渡ってきた。



――馬の嘶き……。



ありえないとは思ったが、それは次の瞬間に大きな衝撃へと変わった。

漆黒の闇。

どこまでも黒い闇が目の前を走り抜けて行ったのだ。風が葎の頬を掠める。

最初はただの黒い塊かと思ったが、特徴的なヘルメットをかぶった人間が乗っていたのを目にしたため、かろうじてバイクだと理解した。

不思議なことにそのバイクからはなにも聞こえてこなかった。エンジン音でさえ。












バイクが通りすぎたあとも、しばらく放心状態にあった。そのため、いつもなら気付けたはずの気配に気付くことができなかった。









「こんばんは」



男の声がした。けれどそれは、なんともいえない不気味さがあった。優しくもあるが、それと同じぐらい冷淡さが滲み出ている。

鋭い刃物を突き立てられたような感覚に捕らわれながらも、表情だけは平静だった。






振り返ってみたが、電柱の陰でよく顔を窺うことができない。



「初めまして、俺は折原臨也。本当はまだ、声かけるはずじゃなかったんだけど、たまたま見かけたからさぁ。久遠葎、だね?」



臨也と名乗った男は、どんどんと葎に近づいていく。距離が2メートルほどになった時、初めて男の顔が街灯に照らされた。






眉目秀麗と表現してもおかしくない風貌をしていたのだが、鋭い眼は全てを蔑んでいるようで寒気がする。

けれど葎はいたって冷静に状況を把握した。



「はい。……情報屋かなにかですか」

「何でそう思うんだい?」



興味深げに問い返してくる臨也に葎はなおも無表情に答える。



「名前を知っているのであればただのストーカーだと思うんでしょうけど、私には無縁です。それで、他に情報が手にはいるものといったら情報屋かと。本当にあるとは思ってませんでしたけど。だから半分は勘です」



予想以上に抑揚のない淡々とした言葉。それが返って臨也の興味を引いてしまったのかもしれない。



「なかなかの名推理だよ。でもそこは普通、不審に思うとこじゃないの? ……あぁ、ごめん。君は普通じゃなかったね。ここまで面白いとは思わなかった」






笑っている。嘲っている。






人を不快にする人間がいるとすれば、臨也はその頂点に立つ人間と言えるかもしれない。



「用はないんですよね」

「まぁそうだけど。あ、じゃあこれ」



いきなり一枚の紙を差し出してきた。



「とあるチャットのアドレスさ。暇な時のぞいてみるといいよ」



葎には臨也の意図が全く分からなかった。だから黙って受け取った。

これが、一番面倒なことにならないと判断したからだ。紙を握りしめると、無言のまま臨也に背を向け歩き出した。












この時――葎は知らなかった。








臨也に目をつけられた事こそが一番面倒になるということを。



























完全に葎が見えなくなった後、臨也は今までで一番“純粋”な笑顔を浮かべて言った。



「ようこそ、池袋へ」








 

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