DRRR!! 小説用
□5話 興味、心に燃ゆる
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翌日 来良学園 1-A教室
放課後の教室というものは、そこはかとなく寂しげな空間を作り上げるものだ。
整然と並べられた机。動き続ける時計。
人がいないという条件がつくだけで、いつもよりその存在が神秘的なものに見える。
だが正確に言えば、静まり返ったこの場所に、人が全くいないわけではなかった。時折、カーテンを揺らす風が1人の少女の髪をなびかせる。
その少女――葎は静かに綺麗な夕焼けを静観していた。文字通りの“静”。
心地よい風が頬を撫でても、微動だにしない。無関心と言えば聞こえは悪いが、それ以外の表し方があるなら教えてほしい。
良く言い表せば、彼女はそれどころではなかった、ということだ。考え事という単純すぎる理由のせいで。
いつもならそんなものに興味を持つことはない。あったとしてもすぐに忘れようとする。
興味を持っても意味がない。ただそれだけのこと。
だったのだが、
――分からない。
――あれは、ただの社交辞令。静雄さんはまだ会ったばかりで私のことは何も知らない。
――でも……久しぶりだったな、ああ言われたのは。
目を伏せ、ため息をつく。その目は悲しみで溢れていた。
その時、教室の扉がカラカラと音を立てて開いた。
「あ、久遠さん……」
1人の男子生徒が肩で息をしながら入ってきた。
長い距離を走ったのか、それともただ単に体力がないだけなのかは分からないが、異常なまでに息がきれていた。
――誰だっけ。
確か隣の席の人だったような気がする。だが、どうにも思い出せない。
葎の視線に気付いたのか、男子生徒は慌てて口を開いた。
「あ、竜ヶ峰帝人です!!」
「あぁ、それだ」
――あ、それ呼ばわりは失礼だったかな。
一瞬考えたが、帝人の表情は何らさっきと変わっていなかった。今の反応と外見から判断して、気弱で温和な性格なのだろう。
「忘れ物?」
「そうだけど……久遠さんは何してるの?」
「さぁ、気付いたら放課後だった。もう帰るから」
そう言うと、ゆっくり窓枠から降り、机の上に置いてあった鞄を無造作につかみとった。
そのまま帝人の横を通りすぎていくかと思いきや、数歩歩いて立ち止まった。
「ねぇ、平和島静雄って知ってる?」
「え!?」
ありえない固有名詞に驚きを隠せない帝人。
「知ってるんだ」
「いや、知ってるというか、知らない人はいないというか、有名というか……」
曖昧な答えに、葎は微妙に眉をひそめる。
「有名?」
「池袋では敵に回しちゃいけない人なんだ」
「そう」
鋭い瞳だった。その目は全てを見透かしているようで気味が悪い。
「僕もよく知らないんだ。……えっと、あとは……あ、折原臨也とかサイモンって人とか……、あとは……」
「折原臨也……」
葎は知らぬ間に復唱していた。
「え、知ってるの?」
帝人が目を丸くしてこちらを見ている。渋る必要はない。だが色々と面倒になるのは御免なので、詳しい話は伝えなかった。
「少しね」
「そ、そうなんだ」
「話ありがとう」
「あ、うん」
それだけいうと、葎は教室を後にした。
平和島静雄を知っていること。折原臨也を知っていること。これらの繋がりは決して偶然ではない。
池袋という街が作り出した必然であり、久遠葎に課せられた運命なのだ。
動き始めた非日常は、確実に葎を飲み込もうとしていた。