DRRR!! 小説用
□12話 紫々鬼、死に急ぐ
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「静雄さん……」
知らないうちに、縋るような声で呼んでいた。
「抵抗しない女に手ぇあげんのは、ちとやりすぎじゃねーのか?」
「て、てめえは……へ、へいわ、平和島静雄!?」
自動販売機の下から這い出てきた男は、焦りでまともに喋る事ができていない。そこへ追い討ちが。
「俺の気が変わらねーうちにさっさと消えろ」
焦りは恐怖へと変わり、一目散に逃げ出す男たち。
葎が呆気にとられていると、静雄が近づいてきた。
「おい、大丈夫か?」
優しい声だった。すべてを包み込むように、温かい。思わず頼りそうになったが、こらえた。
顔を伏せながら、小さく呟く。
「大丈夫です」
「……嘘だろ。怪しすぎだ、顔見せろ」
「何でですか」
「いいから早くしろ」
「……」
渋々、顔を上げた。
静雄の目がわずかに見開かれる。そして、物騒な事を口にした。
「さっきの奴殺す」
憤怒し、怒りに燃えている。
それが自分のためだと思うと、どことなく嬉しくもあって、悲しくもあった。静雄が手を汚す必要などないのだから。
「いいです」
葎の口振りは、余計な事をしてほしくないというよりも、関わらせてはいけないという気持ちの方が強かった。
「よくねーだろ―――」
「ダメですよ」
言葉を遮ると同時に静雄の袖を掴み、顔を伏せた。
「大丈夫、ですから」
それは静雄にではなく、まるで自分に言い聞かせるようだった。その様子に、静雄は呆れたようにため息をつく。
「……ったく、強がってんじゃねーよ」
頭を掴まれ、引き寄せられた。静雄の腕にすっぽりと納まる葎。
どうすればいいか分からずに、されるがままになる。頭を数回撫でられた後、静かに放された。
――静雄さんのやる事はよく分からないなぁ……。
黙って見上げると、視線がぶつかった。静雄が逸らそうとしないので、そのまま見つめ続けた。
じーっと。
先に逸らしたのは静雄だった。片手で口元を隠しながら、咳払いをする。
「行くぞ」
「え、どこにですか」
「新羅のとこだ」
――そういう問題じゃないんだけど。
名前を言われても困るだけだ。戸惑っていると、静雄が何も言わずにしゃがんだ。そして、葎を見上げる。
「ん」
「―――……?」
「乗れよ」
「……けど私、足は怪我してないですよ」
「っ……! こっちのが早ぇーんだよ!」
もっともな事を言われ焦った静雄は、咄嗟に言い繕う。そして葎の手を引っ張り強引に背中に乗せる。
葎は、仕方なく手を静雄の首に回す。その時、静雄の動きが一瞬止まったが、気にしなかった。
気付けば、寂しさは消えていた。あの黒い塊もだ。静雄といるからだろうか。
よく分からない。だが、静雄の背中はとても温かい。安心する。
人の体温に触れ、こんなにも安心した事があっただろうか。
あぁ、なんだかとても眠い。瞼が重くて目も開けていられない。
温もりを感じながら、葎は静かに目を閉じた。
その日、いつもの悪夢を見る事はなかった。