DRRR!! 小説用

□2話 少年、思案に耽る
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「おはよう」と言えば「おはよう」と、まるで録音機のように言葉が流れる。朝の教室にはありがちな光景だ。

誰もが言葉を交わしあい爽やかな朝をむかえている。ただ一人を除いては。



最近この来良学園に転校してきた久遠葎だけは、学校の日常というものを完全に無視した行動をとっていた。

教室の一番端の窓を全開にし、窓枠に座っている。足を外に投げ出して。そしてよく見ると首が小さく揺れている。寝ているのだ。

当たり前のように眠っている葎の姿に、教室の生徒はその行動がどれ程危険なことかを忘れてしまう。

ときどき風が吹いては葎の体を揺らす。そのたびに一人の少年の鼓動が早まる。









竜ヶ峰帝人。

彼は葎の隣の席なのだが、転校してきてから毎日のように窓枠で寝ている葎にどこか非日常めいたものを感じている。



――クラスの皆は多分久遠さんのことをよく思ってないんだろうな。



転校初日の葎の印象は最悪だった。

それもそのはず最低限の挨拶だけすると、さっさと指定された席に座り、後は無関係といったようにひたすらぼーっと外を眺めていたのだから。






葎の後ろ姿を見ているとそのことが頭に浮かんでくるようで、妙に落ち着かない帝人。と、スピーカーからチャイムが鳴り出した。

驚いた帝人は意味がないと知っていながら思わず音のした方向を見る。もちろん何もないのだが。

そしてふと、葎を起こしてあげようと思いつき、また振り返る。

けれど葎はその短時間で席のそばまで近づいていてイスに手をかけている体勢になっていた。

あれほどまでに熟睡していたというのにたった一回のチャイムで起きるとはどういうことなのか。帝人はただ呆然と見ることしかできなかった。

しかしそれが、横目で見る程度ではなく、ほぼ正面を向いた状態だったため、葎と目があってしまった。



――あ、どうしよう。何か話さないといけない? やぁ、久遠さんおはよう! とか? で、でもそれじゃ不自然だよね。そもそも今までのが不自然だったんじゃ……。



目まぐるしい感情の変化に帝人自身がついていけないという状態に陥る。

もう自分が何を考えているのかさえわからない状態までくると半ばやけになり突飛なことをしてしまう。









「おはよう、久遠さん!」



気付いたときには取り返しのつかないことになっていた。散々考えたあげく結局おはようなどとは馬鹿げた話だ。

帝人は居た堪れない気持ちでいっぱいになりながらも、葎の言葉を待った。






一瞬の静寂の後、



「……おはよう」



葎の口角がほんの少し上がったような気がしたが、それは単なる帝人の勘違いだったのかもしれない。

すでに机に突っ伏した状態で眠っている葎を見ながら帝人は思った。









――やっぱり久遠さんは悪い人じゃないと思うんだけどな。ちょっと怖いけど。








 

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