DRRR!! 小説用
□6話 喧嘩人形、闇医者に呆れる
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同時刻 川越街道沿い 某マンション
「つまり、その女の子は静雄が怖くないってこと!?」
贅沢なほど広々とした部屋に、驚きの声がひびいた。
「うるせーな。知らねーよ」
バーテン服の男、もとい平和島静雄は昔なじみである白衣の男、岸谷新羅に苛立ちの声をぶつけた。
新羅のわざとらしい、かつ大袈裟な態度は静雄にとって腹立たしいことこの上ない。
「ああ……御免御免。でもその子、えーと……葎ちゃんだっけ? その話を聞くかぎり、めったに笑わない子なんだね」
「何回も同じこと聞くんじゃねー」
静雄は手に持っていたタバコの箱を握り潰した。数十分話しただけでこの始末だ。新羅とは意気投合もあったものではない。
『まぁまぁ、落ち着いてくれ』
静雄の目の前につきだされた一台のPDA。
それを持っているのは新羅ではなく―――もう一人の人物。漆黒のライダースーツに奇妙なデザインのヘルメットを被り、新羅の横に立っている。
“影”と表現してもおかしくないほど漆黒に覆われている点は、疑問にすべきところだろう。
「……悪いな。セルティ」
セルティ―――彼女は、池袋で都市伝説と噂されている“首なしライダー”だ。静雄は彼女の正体をまだはっきりと確認したわけではない。
彼女との会話はPDAを通して行われる。何も話さないからこそ、静雄を怒らせずに話すことが出来るわけだ。
慣れているため、二人は気にすることなく話続ける。とはいっても、話しかけているのは新羅だけなのだが。
「どうして僕には何も言わないんだと言いつつ、何でもありません御免なさい」
言いかけて、新羅は身震いする。今は手こそ出さないものの、睨まれただけで次に何が起こるか容易に想像できてしまう。
静雄と新羅はやはり奇妙な関係であるといえる。
――何でこんな奴に話しちまったんだ、俺は。こんなろくでもねぇー奴に。
新羅を一言で言えば、空気が読めない。ところ構わずノロケるのだ。これでもかというほどに。
何回も聞かされる闇医者のノロケ話には、とうに呆れている。セルティは魅力的だの強い上に可愛いだの静雄には渡さないだの。
そもそもそれを聞かされるまで、セルティが女ということさえ気付いていなかったしそう感じたこともなかった。
「でさ、何でそんな話するの?」
「は?」
「だって静雄が他人に興味持つなんて珍しいからさ」
「そうか?」
「そうだよ」
静雄は考え込んだ。なぜ自分はこんな話をしているのか。
確かに、静雄を怖くないという人間は少ない。だが、怖くないと言っているのは少女だけではないはずだ。
それなのに、たった二度しか会ったことのない少女を気にするとは。
「俺らしくねぇ……」
「え、なに?」
「何でもねぇ、よ!!」
咄嗟に、近くにあったコップを新羅へと投げつける。静雄の力で投げられたコップは、強さと速さを増し、新羅の顔面に直撃した。
「ブボワっ―――」
のけぞった新羅の体は、重力の赴くままに床へと落ちていく。第二の衝撃が新羅を襲う。
「痛た……。何で投げるの? 投げるとこじゃないよね」
顔にも背中にも激痛を感じながら、何とか立ち上がった。
「何でセルティは何もしてくれないのさ?」
『新羅は別に大丈夫だろ』
さらっとPDAに打ち込み、新羅に見せる。その言葉が相当ショックだったらしく、痛みなどなかったかのようなすばやさでセルティに近づいた。
「酷いよセルティ!」
『こ、こっちにくるな!!』
目の前でこんなイチャつきぶりを見せられると怒る気力もなくなる。軽く舌打ちをしたあと、部屋のドアを開けた。
「邪魔して悪いな。これから仕事だから帰る」
「あ、帰るの? 次からはセルティのいないときにね」
『新羅のことは気にしなくていい』
新羅の言葉には少々腹が立ったが、居心地の悪さに、逃げるように部屋から出た。
「で、結局静雄って何しにきたの?」
静雄の背を見送ったあと、ふと新羅がセルティに問いかけた。
『さぁな』
セルティにも分からなかった。
「もしかしてあれ話すためだけにきたのかな? だとしたら変だよ」
『何でだ?』
きっぱりと否定する新羅に、セルティは首をかしげる。
「静雄、そういうことに疎いし。興味だって湧かないよ。そしてそれをわざわざ話にきたってことは……。これは何かあるね」
『何かって何だ?』
「まだ分からないよ」
ここまで言っといて、分からないの一言とは癪に障る男だ。苛立ちを覚えつつも、セルティは今日の静雄の行動を考えてみる。
『……確かに様子はおかしかったな』
「それにその子の話をしてるときの静雄、あれはなんというか……静雄じゃない! あんな優しそうなの静雄じゃないよ!!」
熱り立って抗議する新羅の姿に、セルティは呆れながらPDAを操作する。
『……もし聞かれてたら殺されるぞ』