DRRR!! 小説用

□9話 少女、現実に目を瞑る
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来良学園 1-A教室






数日経った今でも鮮明にあの出来事を思い出すことができた。それほどまでに衝撃的だったのだ。

そのせいで先刻から先生の話など耳に入ってこない。

折原臨也は何故知っていたのか。誰に依頼されたのか。忘れたくても、忘れられなかった。

いつまでも葎の脳内で繰り返される、あの臨也の言葉。






楽しそうに見えた。変われない。






そんな事は分かっていた。どんなに頑張っても、自分からは逃げられない。

自分のしてきた事をなかったことにはできない。楽しいと感じてしまったのも事実だ。分かっているのに。

もしかしたら他人に真実を突きつけられたから。だから信じたくないのかもしれない。



できれば間違いであってほしい。いや、きっと間違いだ。

折原臨也。全てはこの男のせいだ、と葎は考えたかった。



――紫々鬼になんて、望んでなったわけじゃないのに。



机に突っ伏して、唇をきつく噛む。



――……今更。

――悩むのは性に合わない。



顔をあげると同時に、チャイムがなった。一時間目が終了したらしい。

すると、



「久遠さん、首どうしたの?」



声のしたほうに目を向けると、帝人が心配そうにこちらを見ていた。

首に、傷痕と痣を隠すための包帯を巻いていたからだろう。

包帯というのも大袈裟だが、そのままにしておくのもあまりいいとは言えなかったのでそうしたまでだ。



「大丈夫だよ」



何が大丈夫なのか。自分にも分からなかったが、心配をかけたくないと心のどこかで思ったのかもしれない。






心配をかけたくない? そう思うようになったのはいつだっただろうか。

そういえば、と葎は思い出す。静雄に会ってからだ。彼の悲しげな顔を見て、何かしなければと思ったのだ。






思いの外、自分は変われるのかもしれない。そんな期待を抱いた瞬間、世界が廻る。



「そっか、なにかあったのかと思った。最近、噂になってるんだ」

「紫々鬼がこの池袋にいるって」
























何と言った? 帝人は今、何と言ったのか。自分の聞き間違いではないかと思い、聞き返した。



「何が、いるって」

「え? 紫々鬼だよ。クラスの皆が噂してるんだ」



葎はとてつもない脱力感に襲われた。そんな中でも、耳だけは鮮明に教室の声を拾った。



「紫々鬼がさぁ……」

「怖いよねー!!」

「誰なんだろうね」

「人じゃないかもよ?」

「何それぇ?」

「いやだって、そんな奴いたら化物じゃん!?」



逃げる事など不可能だったのだ。甘かった、全てにおいて。



「どうしたの? 久遠さん」

「何でもないよ」



葎は、何事もなかったかのような口振りで言った。何を考えているのか分からない無表情。決して胸懐を悟られてはいけない。






葎は、つくづく思う。隠すのは得意だと。






頬杖をつき、冷静になって考えた。



――噂を広めたのは、臨也さん……?





























放課後になると葎は逃げるように学校を出た。

走って走って。どこまでも走って。大通りに足を踏み入れる。

葎は胸の鼓動に耳を支配され、周りの騒がしさに気付けなかった。黒い影が視界に入り込んできたことで、やっと世界と自分が溶け込んだ。

そこで葎は―――


















闇を見た。








 

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