DRRR!! 小説用

□10話 影、勘違いに憤怒
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「ふざけてんじゃねーぞ、コラァッ!」

「あぁ? てめぇらもだろーがぁぁあ!!」

「っだとコラァァアア!!」

「っだぁらぁッ!!」



喧騒。今の状況はこの一言で事足りた。

何人かの不良グループが、道のど真ん中で睨みあいの喧嘩を続けているのだ。邪魔すぎる事この上ない。

終いには殴りあいになり、駆けつけた警察に取り押さえられるという始末だ。






その様子を路地の陰から窺っていたセルティは、静かにバイクに跨がった。



――もういない、よな……。ったく何でこんな事に。



ヘルメットの中が微かに蠢く。感情を表現する顔が存在しないセルティは、かわりに漆黒の影をゆらりと揺らめかせた。



――追いかけられなきゃいけない理由なんてないぞ!?



セルティは怒りを飲み込み、最近の池袋の様子を考えてみる。池袋都内で起こる喧嘩は稀ではない。むしろ頻繁に起こる。

しかし、この頃は何かがおかしい。セルティが仕事で外に出ると、何故か不良たちが追いかけてくるのだ。必ずといっていいほど。

そして皆、口を揃えて言う。



『お前が紫々鬼なんだろ』と。



意味が分からない。何かしたわけでもなければ、因縁をつけられた覚えもない。

そもそも、池袋の人間は自分の事を首なしライダーだと噂しているではないか。分からない事だらけだ。

ただ分かるのは、不良グループは血眼になって紫々鬼を探しているという事。そのせいで、気が立っているという事。

だがセルティにとっては、一切関係ない事だ。



バイクのハンドルを握りしめ、前傾姿勢になる。誰も追い付けないように、一気に駆け抜けなければ。

また、紫々鬼だと言われ喧嘩になるのは御免だ。



――よし行くぞ、シューター。



途端バイクが唸り、大通りに飛び出した。突然の首なしライダーの出現に、どよめき始める街中。

けれど追ってくるものは誰もいない。ほっと胸を撫でおろした時―――。



「来たぞ!! 紫々鬼だ!!」



待ってましたとばかりに続々と出てくる不良たち。よく見ればさっきの不良ではないか。待ち伏せていたのか。



――何で、何で!? というか私は紫々鬼じゃないぞ!!



こんな状況でも否定を忘れないセルティ。冷静なんだか、パニックなんだか。

やばいと思いつつも、この状況では良い策が思いつかない。こうなればいつもの撒き方をするしかない。



――できればやりたくないが……今はそんな事言ってられないか。



仕方なく行動に移る。片足を地面につけ、それを軸に半回転しバイクを止めた。

騒がしかったエンジン音が消える。それはもちろんセルティのものではなく、不良たちのバイクだ。



「何だぁ? 逃げねぇーのかよ! 認めるってことか!! コラァッ!」



――何でそうなる!?



まったく、不快だ。ここは早く終わらせるのが吉か。セルティが影を生み出そうとした瞬間、それは飛んできた。






一瞬の沈黙。どうなった。

セルティは自分の身に何が起きたのか分からなかった。街中から聞こえてきた叫び声で、やっと状況を理解した。



――あぁ、そういう事か。



セルティの横に転がる、ヘルメットと金属バット。不良が投げたバットが、セルティのヘルメットを飛ばしたのだ。

黙っていれば好き勝手にやってくれるものだ。セルティの怒りは頂点に達した。



――いい加減に……しろぉぉおおおお!!



セルティの周りで漂っていた影が、瞬く間に地面一帯に広がる。黒で埋め尽くされる街。

伸ばされた影は不良の足に絡み付き、引きずり込む。影の中へと。



「な、なんだ!? はなせ……よっ!」

「おい! どーなってんだこれ!?」



セルティは一層騒がしくなる街を無視して、バイクを走らせた。


























セルティは確かに見た。ヘルメットを飛ばされた時、静かにこちらを見ている少女の姿を。

無機的なその瞳を。








 

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