DRRR!! 小説用

□13話 感情、それぞれの心に谺する
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――軽っ……! こいつちゃんと食ってんのか?



葎を初めて乗せた時の感想がこれである。

あまりの軽さに静雄はひやっとした。自分の力で壊してしまうのではないかと。

ぎゅっと、首に手を回してくる葎は、普段の冷たい態度からは想像もできないほど弱々しく見えた。

耳にかかる吐息に、思わず動きを止める。顔が熱くなり、頭も回らなくなる。



――やっぱ俺らしくねー……。



否定しなければ平常心を保つ事ができない。歩くことで気を落ち着かせようとするが、顔の熱さは変わらなかった。









しばらく歩いていると、背中から静かな寝息が聞こえてきた。首に回していた手の力が弱くなる。



「葎」



呼んでみたが返事はない。相当疲れていたのだろう。

首を少し動かして後ろを見る。その瞬間、思わず息を呑んだ。

普段の無表情はどこへやら、年相応の可愛らしい寝顔がそこにあった。透き通った肌に、長いまつげが弧を描き、艶のある唇はうっすらと開いている。



「綺麗だよな……」



ぼそっと呟く。

随分と恥ずかしい事を口にしてしまったが、そう慌てる事はなかった。通行人はちらほらといる程度で、聞いている者は誰もいない。

もっとも、バーテン服を着た男が少女を背負っている時点で、誰も近寄りたがらないのだが。

しかし、ここでもし茶化されたとしても、誤魔化す気など静雄にはないだろう。正直に思った事を言っただけだ、と何食わね顔で言ってのけるはずだ。

そういう所だけは図太い。









今は閉じられているその瞳は、吸い込まれそうなほど綺麗だったのを覚えている。

心臓が高鳴り、いよいよ平常心ではいられなくなりそうだった。だからあの時、目を逸らしたのだ。



――何でなんだろうな……。



そこまでいけば分かるはずの感情も、静雄には理解できなかった。



























チャイムを鳴らす。

何度も鳴らす、鳴らす、鳴らす。

5度目のチャイムを鳴らそうとした時、いかにも嫌そうな顔をした新羅が少し開いた戸の隙間から顔を覗かせた。



「……」



無言のまま戸を締めようとした新羅に拳のひとつでも食らわせようとしたのだが、葎が背中に乗っている事も考えて、やめた。

代わりに言葉を投げかける。



「怪我してる奴がいんだけどよ」



中からため息が聞こえてきた後、戸がゆっくりと開いた。



「誰が怪我したって? 静雄以外に、人いなかった気がするんだけど……」



直後、新羅の動きが止まる。信じられないものを見る目だ。新羅の視線の先。

静雄の背中で眠っている少女を指差して何かを言おうとしているが、よほど衝撃的だったのだろう、口は動いているが声は出ていない。

静雄は新羅が言わんとしている事が分かったようだが、あえて無視し、玄関を通ろうとした。



「入るぞ」

「え、あ……どうぞ」



























葎の治療を済ませ奥の部屋に寝かせた後、新羅は呼吸を整えた。

一連の出来事を静雄から聞いた時、どうにも腑に落ちない事があった。



――静雄ってこういう事する奴だっけ?



葎の身を案じてここまで連れてくるぐらいは分かるが、わざわざ背負ってまで来るだろうか。



――自分からはしないだろうし……いや、言われてするような奴でもないか。



ただの考えすぎだ。応接間のソファーに座っている静雄のほうに視線を移す。

しかしそこに静雄はいなかった。

こんな短い間にどこに行ったのかと思ったが、実際は新羅が長い時間悩んでいただけだった。

思い当たる所はひとつだけ。新羅は慎重に奥の戸を開ける。

そこには―――寝ている葎を心配そうに見つめる静雄の姿があった。

静かに戸を閉める。



――やっぱりあんなの静雄じゃない!!



静雄が聞いたら間違いなく3分の2殺し確定の言葉だ。

一人頭を抱えていると、不意に玄関の扉が開く音が聞こえた。数秒後に開かれる扉。途端新羅の目が輝く。



「あ、おかえり!!」

『あぁただいま』



漆黒のライダースーツに身を包んだ異形。

新羅の同居人であるセルティだ。



『なぁ、玄関に知らない靴があったんだが……。まさか、新羅、女を……』

「違う違う! 違うからその影しまって!」

『じゃあ、じゃあ何なんだ!?』

「それはね―――」



新羅が状況を説明するために、奥の部屋の戸に手をかけた時―――静雄が驚いた顔をして部屋から出てきた。



「何してんだ? ……お、セルティか」

『静雄!?』

「まぁ、こういう事」



肩を竦めた新羅は、開いた戸の奥を見るようにと促す。

そーっと覗くセルティ。

敷かれた布団に葎が寝ているのだが、セルティには知る由もないことだ。

確認したセルティは、新羅と静雄を交互に見る。



『誰……だ?』

「静雄が前話してた女の子だよ。怪我したんだってさ。いきなり連れてくるから驚いたけどね」

「なんだよ。文句あんのか」

「文句はないよ、文句は」



文句はね、と呟く新羅はセルティに向き直り肩をつかんだ。



「そういう事で、分かってくれた?」

『あ、あぁ。分かったと思う』








 
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