P3P 〜異邦人の願い〜
□復帰
1ページ/8ページ
唐突ではあるが、うちのこれまでを振り返ってみようと思う。
まず、最初に立っていた場所は長鴨神社。そこで出会ったあの白い毛並みのワンコは、十中八九コロマルだろう。
コロマルはこちらの予想以上に人の感情に敏感だった。少しビビった。
次に、街を歩き回っていたところで影時間に突入。理由は不明だが、うちには適性があったらしい。深くは考えない、ぶっちゃけ面倒だ。
けれど、うちのアレは“自然覚醒”に入るだろうか。S.E.E.Sのメンバーは、荒垣先輩を除いてペルソナに寝首を掻かれる心配は無い……よな?
……気にはなるが、今は保留にしよう。
この後で姐さんに保護されて、月光館学園に転入。
もしこの世界に神様がいるなら、随分粋な計らいをしてくれたものだ。組み分けがF組になっただけでなく、席まで向こうと同じとは。
それにしても、勧誘を断るのも楽じゃなかった。美鶴先輩には早い段階で感づかれていたし、ボケ眼鏡……幾月に追及される事が嫌でペルソナ使いだとバラしてしまった。
どの道、遅かれ早かれ知られるだろうから構わないという気持ちもあったが。
そういえば、モノレールでのプリーステス戦がどんな戦いだったのか詳細を知りたい。刈り取る者にやられて昏睡状態だったし、内容は桜に聞こう。
こうやって振り返ると、結構カオスだ。刈り取る者の時は、何気に死亡フラグ立てていたし(クラッシュしたからいいものの)、さてこれから本格的にどうしようか。
……ん? そういえば何か引っかかる。矛盾している……のか?
*
「ふー……、なんか帰ってきたーって感じだな」
6月4日。午前中に退院許可を貰った夏帆は、難しい手続きを店主に任せ、一足先にアパートへ帰っていた。
1ヶ月ぶりの部屋は相変わらず殺風景だが、以前より温かみが溢れている。
荷物の入ったバッグを窓際に置き、窓を全開にしてから窓枠に腰掛けた。凝り固まった首をほぐしながら、入院生活中の中でノートに書き出した“記憶”を読み返す。
5の満月は『女教皇・プリーステス』、6月の『皇帝&女帝・エンペラー&エンプレス』、7月は『法王&恋愛・ハイエロファント&ラヴァーズ』。
ここで順平の不満により桜との関係がグダグダする。
8月が『正義&戦車・ジャスティス&チャリオッツ』。ストレガとの邂逅もある。9月は『隠者・ハーミット』。唯一荒垣先輩が戦闘メンバーとして入るかもしれない戦い。
んで、ターニングポイントの10月。倒すべきシャドウは『運命&剛毅・フォーチュン&ストレングス』。……この時どうしようか?
ラスト、11月は『刑死者・ハングドマン』。アレはプロペラさえぶっ壊せばフルボッコに出来るから多分問題なし、と。
……本命がこれからだけれどね。
「……我ながら計画性皆無」
ぽいっとノートをベッドに放り、自分も続いてベッドに沈む。可能であれば、幾月の裏とストレガの裏を突きたい。ストレガ連中は説得などでどうこうなる問題でもないが。
「うーむ……。すると何が最善の手になるのやら、皆目見当もつかん」
ごろごろとベッドで寝返りを打つ。10月の件も、荒垣と天田の間に入るのは容易だ。止める事だけに焦点を当てるとすれば、どちらかを足止めしてしまえばいいのだから。
もっとも、根本的な解決には至らないという問題が残る。両者の溝が深まるだけだ。
(復讐を果たすまで、天田が考えを改めないのは目に見えてる。かと言って他人が首突っ込んで事態が収集する筈もない。いっそ、先輩が死なない程度に殴らせるか?)
青春モノでは、殴り合って和解もしくは意思疎通のパターンが王道だ。こんなのリアルに当てはめる気はないが、気の済むようにやらせるのが1番ではないかと思えてしまう。
タカヤを押さえておけば、時間稼ぎにはなる。当事者の他に第三者(真田)が到着するまで足止めするというのも手だ。
天井を見ながらぼんやり思案していると、携帯の着信音が鳴り響いた。音源は荷物の中。探り出して画面を開くと、相手は同じ階に住む男子学生からだった。
「五十嵐先輩ですか。どうしたんです?」
《森本さんから、メールで高野が退院したって知ってな。退院祝いに電話してみた》
昼休み特有のガヤガヤとした生徒達の声をバックに、男子学生――五十嵐栂夜はそれに負けない声量で話す。
時刻は昼休みの真っ只中である為、夏帆はふと気になった事を訊ねてみた。
「してみたって、この時間だと昼休みですよね。先輩、昼は?」
《ああ、昼はダチに食われた。無しだ》
「……また食われたんか、アホ」
少年には聞こえないよう電話と顔の距離を広げて、呆れ100%の呟きを漏らす。
これまで何度か会話した中でも、事ある毎に弁当を奪われていると話していたが、対策を打つ気はないのか。