坂田銀時と恋に落ちる?

□共犯
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Drive me nuts 3


銀時たちは通りを歩きながら、羽振りのいい上客から受け取った臨時ボーナスと称したチップを手にしていた。
ひぃふぅみぃと数えている横で、新八が銀時の顔を覗き込んでいる。

「銀さん、もうすぐホワイトデーですよ。梨花さんにお返し、何にするんですか?」

「…何って、クッキー、とか、そんなもんでいいんだろ?」

「これだからモテない男はだめアル!酢昆布がイイネ!銀ちゃん酢昆布くれよォ」

呆れ顔で二人の顔を見ると大きなため息を一つ。

「みんな神楽ちゃんみたいに酢昆布さえあればいいわけじゃないんだよ?銀さんも、そんなことばかりしてたら、本当に梨花さんに愛想つかされちゃいますからね。」

(プレゼントか…そういえばしたことねぇな…)

聞いてない素振りで通りを歩いていくと、ガラス張りの店内にあるアクセサリーに目をやる。
知らず知らずのうちに足が止まっていた。

「…銀さん、プレゼントするなら、もっと仕事取ってこなきゃですね‼僕も営業してこようかなァ」

新八は銀時の顔を見て、親指を立て、ニヤリと笑った。その横で神楽は銀時の脇を肘でグリグリとつついた。
恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべると

「よし!おめぇら…焼肉だ!…ただし、食べ放題のな?あ、あとソフトクリーム自分で作れるのあるトコな!」

大声で言うと神楽と新八を両わきに、肩を組み店へと向かった。

近頃の万事屋は新八の営業のおかげで、繁盛していた。
もともと何でも屋稼業、土曜も日曜も関係なく依頼が舞い込めば、断らない。
断れば次の仕事に繋がらなくなることもあり、休日返上で働いていた。
彼女は最近の万事屋事情を知らず、週末にはいつも万事屋でおうちデートを重ねているので、特に約束をしていたわけではなかったが、当たり前のように銀時に会いにきた。
忙しそうに出かける支度をしている3人を居間の入口で黙って眺めていた。

「梨花ちゃん!」

神楽が真っ先に気がつくと、駆け寄ってくる。

「梨花…」

いつもの木刀を脇に差し込むと、彼女の腕をひき、銀時の広い胸の中へ招き入れた。

「悪りィ…仕事いってくるわ…」

急に寂しい気持ちになる。神楽と新八は抱き合う二人を見て見ぬふりをして、そーっと外へ出て行ってしまった。

「うん…いってらっしゃい。」

「…行ってくるわ」

「…ね…銀さん…っ…ここで待っててもいい?」

隠しきれない程のさみしそうな顔をしたまま下から覗き込みそう尋ねると、銀時は少し困った顔をした。

「遅くなるかもしれねぇし…梨花はせっかくの休みだしよ、今日は帰りな?」

頭を軽く撫で、唇にキスを落とすと、外に促されるように手をひかれた。彼女にはもう
うん
というしかなかった。
銀時は神楽と新八に声をかけると、急いでいる様子でそそくさと出かけていく。
そんな3人を手を振り見送り、後ろ姿が見えなくなると、ぽっかりと空いてしまった今日の予定にため息が出てしまった。

「…はぁ…帰ろうかな…」

彼女は銀時に会える事を楽しみに歩いてきた道を、今度は寂しい思いで戻り始めた。

「あれ…?なんか臭うと思ったら、メス豚じゃあねェですかァ?」

声のした方に振り向くと、先日知り合った総悟が立っていた。
名前を知っているはずなのに、また嫌な呼び方をされ、思わずムッとした。

「…メス豚じゃありません。梨花です、名前言いませんでしたっけ?」

「そうだったようなそうじゃなかったような…そんな事より、浮かない顔してますけど、どうかしたんですかィ?メス豚ちゃん。」

「…だから!…」

「梨花だろ?」

一瞬、名前を呼び捨てされて、心臓が大きくドクンと飛び跳ねた。総悟の大きな瞳に吸い込まれそうになってしまう。おかしな感覚を憶えた。

「どうかしたんですかィ?…万事屋の旦那となにかあったとか?」

「…なにかって…、何も。急に会えなくなっただけです…」

「えぇー!ドタキャンっスか?それはすぐに別れた方がいい。」

「いや、…それはおかしいでしょ?」

総悟は彼女の顔を覗き込むと手を取った。

「暇なら俺とデートしましょうよ?」

今まで飄々としていた表情から、急に真面目に顔つきになり、顔が近づき驚いた。

「…デートなんて!…私には銀さんがいるのに、他の人とはデート出来ません!」

「…旦那のモノなんて、どこにも書いてませんゼィ?」

「…書いてあるわけないでしょ?」

「…首輪もないし。迷い犬かィ?」

「…なんで今度は犬なの…。」

「メス豚よりゃァましでしょうよ。…旦那の飼い犬らしいけど、首輪もついてねぇみたいだし。…保護して屯所に連れていかねぇと。」

そういって総悟は彼女の手首を掴むと、強引に引っ張りながらすすんでいく。
大きな橋を挟み、対岸上に銀時たちが歩いている事に彼女は気がついていなかった。

近くの依頼を終わらせ、神楽と新八を近くの茶店で待たせていた。

「銀ちゃん、梨花ちゃんに似合うのちゃんと選んでるといいね!銀ちゃんのセンスだとあやしいけどな。」

「いや…そういう神楽ちゃんもセンスどーこー言えないと思うけど…でもさ、最近本当に頑張ってたから、ちょっと高くていいの買えるんじゃないかなぁ。」

銀時は彼女へのプレゼントである、目当てのアクセサリーを買うために店に来ていた。
以前通りから見かけたアクセサリーを買うことは、その時からきめていたので買い物はスムーズに終り、新八と神楽の元へと歩いていく。

「あ!あれ、梨花ちゃんアル!」

団子をくわえながら神楽が指を差すと、新八はその方向をみた。
総悟と梨花、2人。
対岸を歩いている。

「え…?なんであの2人が…?…神楽ちゃん…!この事銀さんには内緒だよ…?」

新八は焦った表情をしながら神楽を見た。

「銀ちゃんならここアル!」

新八が後ろを振り向くと、銀時は、ただその方向を黙って見ていた。

(…なるほどね、そういう事か。)

総悟は一瞬こちらの方を意識して振り向いた。
ニヤリと魅せる笑み。

(…おまえの思い通りにはさせねぇよ?あいつもここまで計算してんだろォ?怒らせるためによォ…でも俺ァのんを信じる。)

2人の姿が見えなくなるまで、目を逸らすことはなかった。
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