坂田銀時と恋に落ちる?
□赤い糸のその先
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赤い糸のその先 1
辺りはすっかり闇に包まれていた。待てども彼は帰ってこない。約束したはずなのに、今晩一緒に過ごすと。
時計の針はもうすぐ0時を指そうとしていた。この万事屋には私しかいない。
「来週泊まりにこいよ」
そう言った彼の言葉を聞き、新八くんは神楽ちゃんを自宅に招待してくれた。
「梨花さん、たまには銀さんとゆっくり、ね」
優しい気遣いの一言を残して。
なのに彼は帰ってこない。夕飯はもう冷めた。彼のためにケーキも焼いてきたというのに。
「たまに梨花からご奉仕されてみてぇなぁ」
と妖しく笑う彼に自分の気持ちをごまかしたが、今日は銀さんの望む事をしてあげるつもりだった。長椅子の上で言い表す事の出来ない寂しさを胸にゆっくりと瞼を閉じた。
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無我夢中で走っている。先程までいつもの店で酒を飲み、くだらない話をしていた。少しふらつく足元に心地よい酔いを感じていた。ふと空を見上げ、頭上に夜空の星を感じる。
「星がキレイだな…梨花にも見せてやりてぇな…」
ふと襲った違和感。
何かあった…今日は何かあったはず…
空を見上げたまま、全身に電撃が走る。
「約束だ‼」
そして今、無我夢中で走っている。彼女に逢うために。
なんて言おう…許してもらえるのか?いや、許してもらおうと思っちゃダメだ。…ちゃんと謝ろう。とにかく今は早く…抱きしめたい
勢いよく扉が開かれた。肩で息をし、見開いた目にはいつもの様子はない。ブーツを脱ごうとするも、酔いと焦りからか、なかなかうまく脱げない。
脱ぎ捨てると、いつもと違う万事屋の雰囲気に緊張が走る。いつもならば夜遅くに帰っても灯りなどは絶対についていない。
神楽は自室で眠っているし、定春もその下で寝息を立てているはず。
なのに今晩は灯りがテーブルの上に並べられた夕飯を照らしていた。長椅子の上には背中を少し丸くして横たわる彼女の姿がある。声をかけようにもうまく声が出ない。
夕飯を食べずに待っていたのは、テーブルの上を見れば一目瞭然だった。長椅子のかたわらに腰を降ろすと、しばらく彼女の寝顔を見つめていた。
なんて言えばいいんだよ…。梨花は怒るか?怒るよな、普通。忘れてたって言うのか?いや、それもマズいだろォ?…そうだ…ヅラに会って連れていかれて、それで…いや、ダメだ。
…正直に言おう…
次第に彼女の目が開かれていった。ゆっくりと上体を起こし、銀時の顔を見た。
「…銀さん…」
銀時は彼女の体を抱き寄せ、胸の奥深くから声を吐き出した。
「…ゴメン…俺が悪かった」
きつくきつく抱き寄せ、つぶやいた。彼女は彼の背中を優しくさすり、軽くトンっと叩いた。少しだけ体をはなした彼女の口からは意外な言葉がでた。
「…怒ってないよ」
ゆっくりと腕の力を抜き、恐る恐る彼女の顔を覗き込む。
「…なんで怒ってないの?ココ、怒るトコだよ?梨花?」
「…忘れてるのかと思ったら哀しかったし、寂しかったけど、悪いと思ってるんでしょ?」
「…ぁあ」
「…いいよ。誰にでも忘れる事はあるんだし」
「…梨花…」
「でも、残念だったね…」
「…あぁ…晩飯、冷めちゃったな…出来たて食いたかったのになァ」
「…それもあるけど…」
「…あるけど…?」
「今日はご奉仕しようと思ってた…」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
「…⁈…ご奉仕…って?」
「…前にして欲しいって、言ってたから、今日、しようと思ってた…」
弱り果てていた彼の顔から一瞬にして輝きが放たれた。
「でも、もう遅いし、ほら、12時すぎちゃったから今日はもう終わっちゃった」
慌てふためく銀時に反して、余裕の彼女の笑み。
「イヤイヤ!まだ終わってませんからァ‼朝になるまでが夜だからね?まだまだ時間はたっぷりあるからァ!…梨花…」
すがるような目で彼女の頬を両手で包み込む。
「…どんなご奉仕しようとしてくれてたの?」
ゆっくりと唇を重ねていく。
「…一緒に…ん…お風呂に入っても…いいかなって…っ…思ってた…」
くちびるに優しく啄ばむようなキスを落としながら、彼女の薄く開いた口に、彼の舌がゆっくりと侵入してくる。
「…じゃあ…これから…っ…お詫びに俺が奉仕するよ…なァ、一緒に…風呂はいろ?」
頬を覆っていた彼の手がゆっくりと首すじに降りてゆく。絡ませていた舌をほどき、彼女を抱きかかえると、浴室へと向かって行った。
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