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俺に背を向ける彼女に頭が真っ白になった

嫌な汗が吹き出してくる

どうしてこうなった?

パニックに陥った思考は止まることなく次から次へとめぐっていく

おかしい、だって俺の計画では、今頃彼女は俺に縋り付いているはずだ

目にこぼれ落ちるギリギリまで涙をためて

泣くのをぐっと我慢しながら俺の服の裾を掴んで

別れないで、って懇願して

それを俺は苦笑いしながらごめん嘘だよ、って頭を撫でて

それにほっとして泣き出した彼女にキスを落として

なのに、この現状はなんだ?

彼女は別れないで、すら言わなかった

ただ分かったと小さく呟いて、目を合わせることもなく踵を返し歩きだしたのだ

ほんと、どうしてこうなった?

予想外の展開にただ立ち尽くすしかない

このまま彼女が行ってしまったら、俺達の関係はどうなるんだろうか

別れるんだから、白紙に戻るのか

今までやり取りしたメールも、電話も、思い出すら全部無かったことになって

学校すら違うんだ、きっと二度と会えなくなる

そしたら彼女は新しい男を作るのかな

そう思ったらいても立ってもいられないくて

どうするか考えるより先に、俺は彼女の後を追ってその細い腕を掴んでいた

「…まだ、何か?」

「っ」

痛い

当初の喋り方に戻っている彼女に心臓が悲鳴をあげた

それでも上っ面だけは取り繕って何でもないように話しかける

「ななしは、それでいいの」

口から出た言葉に内心苦笑いしてしまった

意地っ張りな俺はどうしても彼女に別れたくないと言わせたかったらしい

「……………」

「……………」

「……………」

嫌な沈黙が続く

下手に口を開けない

どう攻めようか迷っていると、彼女が沈黙を破った

「………別れたくない」

「!!」

待ち焦がれた言葉に喜んだのも束の間

「とでも言えば満足ですか?」

その時の彼女の目の冷たさに思わず固まった俺は、本当にどうすることも出来なくて

掴んでいた手を払い落とされて、彼女が止まることなく歩いていくのをただ見送った




親しき仲にも礼儀あり


(俺が別れたくないって言えてたら、君は残ってくれたのかな)

2010.08.21

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