□芽吹いた話
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僕が言うのもなんだけれど、僕の幼馴染のななしは色々と抜けている。抜けているというか、天然というか。底抜けに明るいバカ、と言ってしまえばそれまでなのだが。小さい頃から嫌なことがあっても泣かずにヘラヘラ笑っているような子だった。まぁ、そんなななしに何度も救われてきたのだけれど。

僕がななしが泣いているのを見るのはいつ振りだろう。大人になってしまってからは更に見なくなった気がしていたのに。両目からポロポロとこぼれているのは間違いなく涙で。そっと指ですくうともっと溢れ出てくる。あぁ、逆効果…。でもそしたら僕はどうやってこの涙を止めてあげられるんだろう、いや、泣かせたのは僕なのだから僕には泣き止ませることは無理なのかもしれない。

「ななし…ななし、お願いだから泣かないで」

「だって…てる、照美くんがいきなり」

「うん、ごめんね。いきなりだったよね。忘れていいよ」

良かれと思ってそう言ったのに、一瞬止まったと思った涙がまた流れ出す。逆効果V2…。おかしいなぁ、泣かせたいわけじゃないのに。何でこんなにも裏目に出てしまうのだろう。僕の服の袖はななしの涙を吸いすぎて色が変わっているけれど、今はそれが酷く嬉しい。もう一度優しく目元を拭うとななしは困った顔をする。

「なん、何で、急にそんなこと言うの、照美くん」

何で。といわれると、少し困ってしまう。それはずっと僕の中に息づいていて、少しずつ少しずつ育っていったのだけれど。それがさっき急に芽吹いたのだ。そうしたら留めていられなくなって、僕の口から飛び出した。それだけのこと。結果、泣かせたわけだけど。一度出てしまった以上隠す必要もないと、変に開き直った僕はありのままをななしに伝えた。

「だからねななし、僕と結婚してほしいんだ」

「私たち、付き合ってもいないのに?」

「そんなの関係ないくらい、時間を共にしてきたと僕は思っているんだけど」

「それは、まぁ」

「でも君が、付き合う時間も欲しいと言うなら、結婚を前提に僕と付き合ってほしい」

「……」

「………だめ、かな」

「その…よろしく、お願いします照美くん」

ああどうしよう今なら本当に神になれそうな気がする。













2014.03.29

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