第二期小説 魔法の国の戦闘記

□第13話 正義 後編
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<学生寮>
咲美「「また明日ね〜」」
火楓「おやすみ〜」

龍「じゃあな〜」

破「バイバ〜イ」
雪「……」

皆それぞれの部屋に散っていく。
破月も雪兎を連れエレベータに乗り自室に向かう。

チンッとエレベータが目的の階につくと扉が開き二人はエレベータからおりた。

破「雪兎?どうしたのさっきから黙って…」

さっきから無言の雪兎を心配して破月はこえをかける。
いつもなら抱き付いてきたりするのにそれすらもしない雪兎。

別にしてほしい訳じゃないが、こうまでいつもと違うと心配になる。

雪「何でもないよ…」

脱力したような声で雪兎は部屋の鍵を開ける。

破「…?(怪しいッ…絶対に何かあったに違いない)」

雪「破月、お腹空いてる?」
破「へ?…まぁ空いてる…かな」
急に話しかけてくる。
雪兎は何かを隠すように笑顔を浮かべ、キッチンに向かう。

雪「何か、食べたいものある?何でもつくってあげる!」

破「…なら…ステーキがいい…」

食卓に座りキッチンに立つ雪兎の姿を伺う。

雪兎は早速冷蔵庫から、肉の塊を出すと分厚くきり下拵えを始める。

それから無言が続き十分が過ぎた頃、今日の夕飯が出来た。

雪「さぁ、召し上がれ。おかわり沢山あるから」
破「うん…」

雪「このお肉ね、となりまちのブランド牛だから、脂がのって美味しいんだよ〜」

無言が続くと思いきや、今度は無言が怖いと言う位話し始める雪兎。

明らかにいつもと違う雪兎の姿に破月はフォークとナイフをテーブルに置いた。

破「…どうした雪兎?何かあったのか?」

雪「…何も無いよ…」

破「嘘ッ!さっきから雪兎おかしいよ!

…もしかして、お兄ちゃんに嫌な事言われた?」

考えられる理由、として浮かんできたのは兄の姿。
兄は雪兎を連れだした。わざわざ廊下に出ないと言えないような話しをされたのは間違いない。

きっと雪兎がおかしくなったのはそのせいだ…。

雪「…嘘か…。なら、破月もついてるんだろ?」

雪兎はフォークだけをテーブルに置くと、ナイフを握りしめ席をたつ。
そしてゆっくり顔を真っ青にして立ち上がる破月の前までいくと、左手で胸ぐらをつかみあげる。

破「ヒ―…ッ!?雪…兎?」

雪兎はナイフを握り直すと、破月の着ている制服をナイフで切り裂いた。

破「―ッ////」

突然の雪兎の行動に破月は顔を赤らめ手をクロスさせ上半身を隠す。

雪兎は、露になった体を見、眉を潜め、目を細めた。

何故ならば、破月の体中には無数のかすり傷や、打撲傷の痕があったからだ。

雪「その傷ッ…!」

肩に手を置き体を反転させ、背中も確認する。

背中は前より酷く、皮が捲れ真っ赤になっていた。
雪「これ…誰にやられたんだッ!!?」
思わず声をあらげる。

破「―…ッ!…。
だから階段で…ふざけて…」

破月は雪兎の剣幕に体をぴくりと震わせるも、直もしらを切る。

雪「…ッ、何で嘘つくんだ…?」

苦しそうに喉から、絞るように発せられた雪兎の言葉に、破月の胸がチクリとする。
雪兎は後ろからキツくキツく破月を抱き締めた。

破「…―ッ。」


悔しかったんだ…。

あんなボロボロに負けたのは初めてだったから…。

別に手を抜いた訳じゃない…なのに、私は負けた。

悔しくて虚しくて…。


私は強い。
そう思ってたから…。
自信喪失した。

いつの間に弱くなったんだろうか、それすらも分からない。

ただ私は、敗北した。
恥ずかしい…、あんなひょろひょろしたガキに負けるなたなんて、言えない。

…負けたなんて絶対にいえない…。

皆は私が強いから一緒に居てくれる。
龍は私が強いから、価値を見いだしてくれた。
友達になってくれた。
龍の期待を裏切れない。

裏切りたくない…。

幸い私が負けた所を、誰にも見られてなかった。

私さえ黙ってたら、きっと大丈夫。
隠し通すんだ…。


破「本当に階段で…」
雪「例え階段を踏み外したとしても、こんなに皮は剥けないッ!」

破「クッ―…///本当に大丈夫だからッ!」

雪兎の腕からすり抜ける。
雪(本当の事、話してくれない…ッ。やっぱり破月は俺のせいで…ッ)

すると雪兎は、自分の上着をハンガーからとると破月に投げわたし言った。
雪「…さよならだ破月」

破「―…え?雪兎…意味分かんない…」

雪「もう…一緒には、居られない」

そう言うと雪兎は、破月の背中を押し無理矢理部屋から追い出すと鍵を閉めた。

コンコン…ッ!

…ドンドンッ―!

ノックは段々激しいモノに変わる。
しまいには蹴っているのか扉が軋む。
蹴り破られない様に、中から押さえる。

破「雪兎、どうしたの?何か気にさわる事言ったなら謝るから…扉をあけて…」

雪「……」

破「中に入れて…ちゃんと話がしたいッ!」

扉越しから聞こえてくる破月の悲痛に、雪兎は顔をしかめながらも必死で気持ちを押し込め叫ぶ。

雪「もう、俺の前から消えてくれッ!!」

破「ッ―…!///」

雪「…もうやめてくれ。これ以上…一緒に…居られないんだッ。

早く兄さんの所に行けよッ!」

その言葉が止めになったのか。

扉越しに足音が消え、段々小さくなって遠ざかる。
一応廊下に誰もいないか確認する。
廊下は静まり返って人気は無い。
扉から離れ覚束ない足取りで、リビングに向かう。
テーブルにはまだ食べかけの二人分のステーキ。

それ見た瞬間、雪兎はその場に座り込むと嗚咽しながら呻く。

雪「クッ―…ゥッ…ウゥ…ッ―ご…ッ、ごめんなァァ…ッ酷い事ぉ…言ってぇ―…ッ///」

本当はあんな事言うつもりはなかった。
ただ今日は、せめて今日だけは、我が儘で破月と一緒に居たかった。

妹が心配な冠さんの気持ち分かるから。
破月が虐められてるのは俺が原因だから諦めなきゃいけない…。
自分でけじめつけたくて、だから今日は楽しく過ごしたかったのにッ―…。
涙で霞んでゆく視界。

ポロポロと涙が絨毯に吸い込まれていく。
だがやがて涙は凍りつき、部屋にも冷気が漂い出す。
ピキピキと薄い氷が床や壁を覆っていく。

雪「……もぉ、…どうでもいい」




<連合国市街地>

破「……肌寒いな…」

夕方になると急に冷え込む。
雪兎に渡された上着に袖を通す。

破「暖かい…」


どうして雪兎があんな事言ったか分からない。
でもこれだけは分かる。

あれは雪兎の本心ではないと。
確証できる。


もしかしたら、傷をみて雪兎は悟ったのかもしれない。
私が負けた事に。だから…雪兎は私に強くなってほしくてあんな事言ったんだ…。

ふらふらと宛もなくさ迷っていると、目の前にいつの間にか見知った顔が立ってこちらをみていた。

ガ「あなたは…確か、ボールス様の…ッ」

破「あんた確か…クロスチャペルの…」

一歩ガレスに向かい足を進めると、何故かガレスは一歩一歩遠ざかっていく。
しかも小さく悲鳴をあげ、フランスパンを盾にしながら。

破「何で逃げる?」

ガ「えっ…と、その…、お兄様が…あまり貴女に近づくなと…―ッすいません!」

失言をしてしまったと思い深く深く頭を下げるガレス。
破「別に怒ってないよ。
…だからそんなに怖がらないで」

ガレスと同じ目線まで腰を屈め優しく微笑む破月の姿に、僅かにガレスは警戒をとくと頬を緩める。
だがまだ怖いのか、一歩後ろに下がった。

破「…名前…ガレスだったよね?
ガレスはこんな所でなにやってんの?」

ガ「その…お恥ずかしながら、…デュラハン様とボールス様を迎えに行く途中、人混みではぐれてしまって…。」

破「お兄ちゃんを?
お兄ちゃんならとっくに帰ったけど…」

ガ「えぇッ!?どうしよ…ランスロット様に怒られるぅぅ〜」

ポロポロと泣きべそをかくガレスの頭を優しく撫でると破月は言った。

破「私も一緒に謝ったげるから、泣くな。」

ガ「ふぇ…っ…どうして、あなたも?」

破「分かんない。
只の気紛れ。
それに私もお兄ちゃんに会いに行く途中だったし、ついでにね♪」

ガ「…!…はい…。

―ッ、寒ぅぅッ…」

夜風に身震いさせるガレスに上着を脱ぐと羽織らせる。
ガレスは困った様な顔をして、破月を見上げる。

ガ「あの…あの…上着…」
破「着ときな、風邪引くよ。

さぁ帰ろ…」

ソッと手を差し出すが、ガレスは警戒してるのか、手をもじもじさせている。
破月はため息1つつくとガレスがもつフランスパンを掴み、歩き出す。

破「これなら、いいでしょ?

はぐれんじゃねーぞ」

ガレスはもう片方の端を持ちながら、黙ってついてゆく。

破「てか、このフランスパンどうしたの?」
ガ「美味しそうだったので、お兄様のお土産につい…」

破「その時はぐれたの?」

ガ「…すいません。」
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