短書
□くちなしの花
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こんな健斗との不毛な関係が始まったのは一年前
今日のように空が灰色に染まり、雨のじっとりとした空気が重く漂っていたころだった
その日も文弥は己の欲を満たすだけの行為のため相手を探していた
「明さん、俺もう帰るは」
何度も通い顔なじみのマスターにそういうと文弥は席を立とうとした
ちょうどそのときバーの扉を開ける音がした
「おや…」
マスターのつぶやきに文弥が振り返った
そこにいたのが健斗だった
遠目からでは相手を求めてきたのか、はたまた何も知らず入ってきてしまったのかはわからなかった。
ただ、近づくにつれて彼が同類であることは何となくわかった
健斗は文弥の二つ横に腰かけた
近くで見れば見るほどわかる彼の容姿の良さ
女性受けのよさそうな顔
雑誌に出てきそうな完璧な服装
それを着こなすたくましいからだ
『決めた』と文弥の目が語っていた
不特定の人間と関係を持つ文弥だが、好みはある
Give and take
――――それでいいとその時は思っていた