寸書
□1ページ物語
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僕らは非日常を求めてる
たとえば僕の前にある水たまりが異世界に通じてるだとか。そしてうっかりそこに足を踏み入れてしまったりだとか。次に目が覚めたとき森の中だとか。
そんな大きな非日常は置いておいて、もっと身近な…、たとえば実は僕は大企業の跡取りで、とある事情で今まで庶民として生きてきただとか。そして、明日からはいろんな理由で跡取りとして生活するだとか。学校には車で通学。売店でブラックカードで支払い。できなくて万札を出して、「僕小銭は持ち歩かないからおつりはいらない」って言ってみたり。あ、あとはかわいいメイドさんなんてのもいいな。
…何が言いたいかというと、つまりはつまらないわけだ。現実が。
両親は平々凡々。母さんが最近父さんの小遣いを減らしたらしく、父さんがぼやいていた。妹の悠もいたって平凡。何がダメというものもなく、何がいいというものもなく、笑ったときに見える八重歯がかわいいくらいだ。
そして、僕。日常に刺激を求めるお年頃。小松将太。きっとすぐに忘れてしまうであろう名前なので、もう一度言っておく。小松将太。少しは覚えてもらっただろうか。
まぁ、ここまでずらずらと書いてきたわけだが、結論から言うと、僕はただの学生だ。勇者にはなれないし、魔法だって使えない上に、必殺技も持っていない。あえて言うなら、この前テレビでやっていた痴漢撃退の護身術は知っている。
財布にはポイントカードしか入ってないし、来ている服は制服だ。
ちょっとした非日常は求めていた。
ただ、こんな非日常は求めていなかった。
「本日より将太様がこの世界を収める神となりました」
あぁ。どうして僕の体は透けているんだ?
目の前の人は誰だ?
これは夢か?
聴きたいことは山ほどあるが、とりあえず一つだけ言わせてくれ。
冷蔵庫のプリンを食べ忘れた。
あの時から始まっていたのかもしれない。いつも食べるプリンを食べ忘れ、ワイシャツのボタンをかけ間違え…、傘を忘れ…。
確かにいつもと違っていた。でも、極めつけがこれはないだろ。
「では、将太様。間もなく天界に向かわれます。下界に思いのこしはございませんか?」
ありまくりです。
僕の求めていた非日常は突然にやってきた。
さよなら。僕の日常。
ただ、僕はこの時知らなかった。これが物語のほんの序章でしかないことを…。
と、言ったら続きそうなので一応言ってみた
【END】
はい、出ました。思わせぶりな最後。
これはここまでで満足です。