短書

□くちなしの花
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「っ文弥!?」


これは幻覚

都合のいい


(あるわけがない)



正樹の体重がなくなる


「彼氏さんの登場?」


茶化したように正樹が言う

すでに寛げられていた前は占められていた


文弥はほとんど裸のまま目の前を見据えた



「出てけ」


怖い声

文弥のきいたことなのない声、見たことのない表情で健斗が言う


自分に言われているのではないのに緊張する



「早くしろ」


なかなか動こうとしない正樹にしびれを切らしたのか健斗が正樹に目を向けて言う

「……」

「……」

沈黙を破ったのは正樹だった

「はぁ、バイバイ文弥」


ちらりとこちらに視線を向けた後正樹は踵を返した







「っ、ぅん」


健斗は何も言わない

部屋は文弥の整わない呼吸の音だけが響く


(―――怖かった―――)


健斗が来なかったら…


いや、自分は助かった

それが事実

”もしも”なんて考えたくない


「いろんな奴とやってるからこんなことになるんだよ」


きつい一言だった

それは本当のことかもしれない


でも、言われたくなかった



「それとも実はあいつとやりたかった?」



言いようのない気持ち…


あの状況を見ていながらなぜそんなことを言うのか



下を向き瞳を閉じる

目じりにたまっていた涙がこぼれる



「ん、んな訳ない…」




乱れた服の裾を握る



「誰でも…、い、訳じゃ…なぃ」




「誰ならいいんだよ。結局浮気だろ?」



(ん??……う、浮気?・)



「…う、わき?」



驚きで顔を上げ健斗を見る


「文弥のしてたのは浮気だろ」


わからない

何も言わないでいると健斗が大きくため息をついた


「マジ最悪ないわ」


「ち、…がぁ」

なぜか否定の言葉が出た




「別れようぜ」





――いろんな意味で確信に変わった





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