短書
□くちなしの花
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「なぁ、かえって」
こんなことを自分から言ったのは初めてだった
「は?」
きっと健斗は忘れ物を取りに来たのだろう
勝手だがそう、結論付けた
「もう、用ないし。てか、セフレもなしで」
立ち上がり部屋を出ようとする
「…んだよそれ」
冷たい
冷たい声だった
左腕を健斗に取られる
体が傾く
崩れ落ちそうになった体は健斗に服を引っ張ることで支えられた
首に服が食い込んで痛いが健斗は離す様子はない
「覚えてないってなんだよっ、セフレってなんだよっ、もう、なんなんだよ」
子どもがわめくように
癇癪を起したように
でも、その声はどこか弱弱しくて
「…ご、め」
自然と誤っていた
「なぁ、なんで浮気したんだよ」
「なぁ、なんで気づかないんだよ」
「なんで信じてくんねーんだよ」
「ごめ…ごめん」
あぁ、ずっと健斗は苦しかったのだろう
「ごめっ」
健斗の体に腕を回す
こわばっていた健斗の体から力が抜ける
同時に健斗の全体重が俺に埜っかかってきてその場に二人して崩れ落ちる