短書
□Uoham
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「だから、あなたは何度言ったらわかるのですか?メルド=ラナ。図書館の書物は誰のものですか?少なくともあなた一個人の物ではないでしょう。」
書物を汚すたび怒られた。
汚す気はないのだ。真面目に。
「なぜ、いつも、いつも魔術書をこうしてしまうのですか…。」
そこには、一種の悲しみも混じっていた。
それもそうだろ。ここにある書物は彼が世界中を飛び回って集めたものが多い。それこそ、世界に数えるほどしかないものもある。
魔術書によっては再生がきかない、真魔術書もある。一応それは借りないようにしているのだが、それでも彼の怒りは収まらない。
「もう、いいです。あなたには魔術書の貸し出しを禁止します。」
それは困る。知識を得るには本が必要だ。本を得るには金が必要だ。金には限度がある。そんなに持っていない…。
「…、すみません。」
「…」
「…もう、よごしませ『そのセリフは聞き飽きました。』…。」
「…」
「…」
見つめあうこと数秒。先に折れたのは図書管理だった。
「いいですか。次、魔術書を少しでも汚したら自分で再生作業を行ってもらいます」
―――再生作業
簡単に聞こえるが、これがなかなかめんどくさい。
単純な土やペンの汚れは簡単な魔術で再生できる。しかし、たとえば魔術の影響を本が受けると再生作業は困難を極める。
もともと、魔術書自体が魔術によって作られている。
その魔術書が魔術により何らかの影響を受けると、本来の魔術がうまく作用しなくなり、最悪の場合魔術書は再生できなくなる。
それを再生するのには魔術書の知識がいる。何千、何万という魔用語の羅列の損傷を探し出しなおす。
まるで海に落ちた針を探すような作業なのだ。
魔用語の羅列ですら何万もありそれを覚えている図書管理は両の手で足りるほどだろう。
なにはともあれ、再生作業だけはご免こうむりたい。