短書
□(タイトル未定)
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「聞こえねぇの?…消せ」
怒鳴っているとかじゃないんだけど、静かに言う大地のこえは、威圧的で僕もびくってなった。
いつまでも動かない、いや、動けない沢口にしびれを切らしたのか、大地はその手からケータイを取り上げるとカバーを外し、マイクロSDを出した。
沢口はあわてたように、何か言ってるけど、大地はそれを床に置くと上履きの裏でばきって踏んだ
みんな息をひそめてその行為を見ていたが、やっぱり教室は静かなままだった
どこか大地を恐れる空気
…正直、僕も大地が怖かった
僕が口を開こうとした瞬間、大地は僕の顔を一瞬見て踵を返した
「…あ、だ、大地っ!」
十分僕のこえは届いているはずなのに、大地は止まらない
僕は小走りで大地のもとに向かう
もともとのコンパスの差で差は少しずつしか縮まらない
「っいち!」
やっと大地に追いついたのは屋上に続くドアの前
制服の裾をギュッとつかむ
大地は振り向きもしないどころか、そのまま屋上の扉を開け、外に出る
僕は後ろから大地の大きな背中に抱きついて、大地の歩みを止めさせる
「ごめん、大地…。」
顔を大きな背中にうずめて言う
「……」
前に回った僕の手に大地の手がかぶさり、ゆっくりと離される
振り返った大地の顔はどこか悲しそうで僕はもう一度「ごめん」といった
そっと大地の頬を手で触れると大地は目を閉じた
なんていえばいいのかなんてわからなくて、思っていることを伝える
「教室んとき、届きに来てくれたのに避けてごめん…。さっきの大地怖かった。知らない人みたいだった。」
そういうと大地の顔が悲しげにゆがむ
「びっくりしたし、怖かった。でも、でも、嬉しかった。…ありがと」
大地がゆっくりと息を吐いた
「ここに来ないのはわかってたんだ」
ぽつり、ポツリと紡がれる言葉
「しょうがないってことも…。でも、なんか会いたくなって。教室まで行った…。周りのやつ気にして、こっち見ないお前にむかついた…。」
「…うん」
「でも、そのあと、周りのやつよりも、お前に怖いって目で見られて、むかついたっつーか、いやっつーか…、俺にもよくわかんねぇ」
「ごめん…」
風の音に消されてしまいそうな声
「美鶴…。”…――――。”」
耳元でささやかれた言葉
嬉しいのか、悲しいのか、胸の中に熱いものがあふれてくる
きっとそれは、もうずっと気づいていたのかもしれない。ずっと前から…。気づかないふりしてたのかもしれない。
大地の背中に手を回す。大地の手も優しく僕の体を包む
背伸びをして大地の耳元に顔を寄せる。
風がかけてゆく
大地にしか聞こえない声でささやく
「僕も…」
太陽の光が二人を包んだ
【END】