短編

□交えぬ魂
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1600年9月15日。
決戦の地、関ヶ原にてその戦は始まった。

最初の内は数で東軍を上回っていた西軍だが突如としての小早川軍の裏切りによって西軍は苦戦を強いられていた。

現状では有利な状態であるにも関わらず東軍の総大将である彼、徳川家康は一人で難しい顔をして今目の前に立っている敵将、石田三成と対峙していた。

石田三成と徳川家康はかつては共に豊臣の下で働き、そしてお互いに心と体を許し合った仲であった。

だが今二人の間に張り詰めている空気はそんな関係があった事など嘘のように思わせる程緊張しきった空気だった。

「ついにこの時が来たか…三成…今のお前を動かしている物はやはりワシへの憎悪だけなのか?」

「わかっているなら最初から聞くな…私は貴様の首を切り落とすためにここにいる」

家康は人知れず小さな溜め息をついた。

三成とこうなってしまう事は秀吉を討つ前から大体想像していた。

三成とは決別してしまい二人の関係は跡形も無く崩れ去りお互い違う道を歩み、そしてもう二度と交わる事はない。

それを承知で家康は彼が慕い、崇めていた神、秀吉を討ち取ったのだがあれから自分への憎悪に駆られ自らを省みる事をしなくなってしまったかつての恋人を見てしまうと自らの下した決断が正しかったのか疑ってしまう。

自分はただ三成にこれ以上傷付いて欲しくなかった。それだけの事だったのだが彼をこれ以上傷付けないようにするにはこの方法しかなく、それは彼を精神的に最も傷つけ悲しませる方法でしかなかった。
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