短編
□鏡の魔法
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とある城の暗く閉ざされた塔の真っ暗な部屋に私はいた。
何もないこの部屋に響く音といえば私の鼓動の音だけだ。
思えば私は一国の王子でありながらこの世に生まれ落ちた時から蔑み、疎まれ、恐れられ、嫌われ、不幸に愛されて生きてきた。
とある嵐の日一人の招かれざる客が私の元へ訪れた。
顔に包帯を巻いていて表情はよくわからないがその男は鏡を手にして微笑んでいた。
「ヒヒッ、主も不幸な者よの。」
私の不幸はきっと天が定めたものだ。きっと私は前世か何かでかなりの悪行でも働いたのだろう。今更どうこう喚いても仕方がない。
「主の不幸が誰のせいか知りたくないか?」
私の不幸が誰かのせいだと?
「この鏡を覗いてみるがよかろ。主を不幸にさせる者が誰だかわかろ。」
私は半信半疑ながらに鏡を覗き込んだ。
鏡を覗き込むと一人の幸せそうな少女が写っていた。
私はやはり戸惑いそして本当なのかと疑った。
だが仮に本当だとしたら私の『幸福』は全てあの女に奪われていたのか?
一度そう考えれば途端に心には憎しみの色が広がり染められていく。
この鏡の向こうは全て反対らしい。
そうだ。あの『幸福』は私の物だったのだ。
奪われたなら奪い返せばいい。
私は運命の天秤を入れ替えた。
そうだ、今までの事は全て捨て、忘れ去って新しい幸せな人生を祝福されながら生きていこう。