† Novel room †


□一緒にいよう
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これから先の未来も…、私はまた、此処にいて良いのでしょうか…。
時折、怖くなる。
今の幸せを再び、壊してしまうのではないかと。



《一緒にいよう…》









夕暮れのネオトピア。
変わることのない平和が続いていて、魔神が滅びた数年後も尚、それは変わらなかった。
あれから数年後、私はあの決戦から無事に帰還してS.D.Gに加入され、開発力を見込まれた為に開発部所属となった。

けれど、自分は一度この世界を消滅しようとした罪人であり、破滅の使者だ。何故、そんな自分を受け入れたのか未だに分からない。
消えて当然だった自分をこの世界に繋ぎ止めてくれたのは感謝している。
でも、自分がここにいれば今ある幸せを壊してしまうかもしれない。
一度爆発した負の感情に、怯えるばかりだった。

夜19:00。
残りの仕事を片付けようと残業を決め込んだところ、カオ・リン主任に声をかけられた。

「マドナッグ。今日はお疲れ様ネ!もう上がってヨロシヨ?」
「え、あ…。いや、でもまだ未作成の資料が残っている筈では……?」
「ムリは禁物ネ。たまには休息を取らないと、マドナッグが倒れるヨ。それダメネ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。お疲れ様でした、主任」
「キャプテンたちにヨロシク〜」

主任に休息を取るよう言われた私はブランベースを出て、シュウトの家に帰宅した。
私が彼の家で暮らせているのは、『一緒に暮らそう』と思いがけずも優しさの溢れた申し出を受けたからだった。

「ただいま戻りま……」
「くぉらぁっゼロォオ!!俺の刀を早く元に戻さぬかァッ!!」
「はぁー。相変わらずだなお前は。時と共に壊れゆくその御刀を、我が国が誇るプリンセスローズでリニューアルしてやったというのに礼をも言わないのか」
「何だとォっ#!覇王丸様から賜ったこの剣が壊れる訳がなかろうッ!!何がリニューアルだ!五聖剣を侮辱するか!?」

「………………;」

相変わらずの光景という言葉が頭をよぎったのは、現在喧嘩の最中であるこの二人を見たからかもしれない。
憤怒する天宮の武者、爆熱丸が握っているのは紫の薔薇に染められた五聖剣。
原因である翼の騎士ゼロはやれやれと溜め息をつき、爆熱丸の怒声をのらりくらりとかわしている。
つまり、昔と変わらないケンカを今もしているという事だ。
半ば呆れながら見ていたその時、明るい少年の声が私の音感センサーに響く。

「あ、おかえりマドナッグ!」
「ただいまシュウト。またやっているのか、あの二人は」
「う、うん。でも僕にとってはいつもと変わらない風景だし慣れてるから、大丈夫だよ」
「……そうか」
「どうかしたの?元気ないよ」
「…未だに、自分が生きていていいのか分からない。また負の感情が爆発して我を忘れて暴走してしまう事が、今の幸せを壊してしまう事が怖いんだ。」
「ずっと、それで悩んでたの…?」

悲しげに私を見つめるシュウト。
せっかく、一緒に暮らそうと言ってくれた彼にこんな事を言う自分が愚かに思う。

君のせいではない。

私が、ただ臆病なだけなんだ…。

「……すまない、シュウト。こんな弱音を聞いて、呆れただろう」
「ち、違うよ!」

違う。
純粋な瞳がそう必死に訴えてくる。
何が、違うと言うのだろう。

「僕が、いきなり一緒に暮らそうなんて言ったから無理してたんでしょ?未来で辛い思いをして、僕やキャプテンたちのそばにも居づらかったかもしれいのに…。ごめんね、マドナッグ」
「シ、シュウト…」

あんなに、酷い事をしたのに…。

友達という絆を深めたキャプテンを、怨みに任せて痛めつけたのに…。

そして、世界諸共君を消し去ろうとしたのに……。

どうしてそんなに私を大切に思ってくれるんだ。

少年の瞳から、ぽろぽろと涙が溢れる。

「シュウト…。泣かないでくれ。決して君のせいではない。まだ、私自身が今の状況に慣れていないだけだ」
「…で、でも、苦しかったんでしょ?」
「苦しくないと言えば嘘になるが、君があの時に一緒にいようと言ってくれなかったら私は、…また同じ過ちを繰り返していたのかもしれない。それは絶える事なく、永遠に」

懺悔のような文句を紡ぎ、息をついた。
不器用な手つきで、シュウトの瞳から零れる涙を拭う。

そして、優しく抱きしめた。

「…マ、マドナ、ッグ……?」
「もし許されるなら…、私はこの世界にマドナッグという存在でありたい。でも、私がまた闇に取り込まれた時は…、自分を制御出来なくなったら、私を止めてくれるか…?」

精一杯の願い。
君に、どれくらい伝わったのだろう。
けれどその返事は、私の予想をはるかに超えるほど純真で無垢な、優しい温もりにも似たものだった。

「大丈夫だよ。マドナッグはもう、憎しみに駆られる事もないし、闇にも負けない。けど、自分を見失っちゃった時は僕が呼んであげるから。その時は気が付いてね?君はもう一人じゃない。だから…、分け合おうよ。悲しい事も、苦しい事も」


その後、これが感情というモノなのかどうかは定かではないが、私は初めて涙を流したのだった。


―陽の光のような存在。

それは温かくて、心地よくて、安らいで。

だから、私は誓う。

仲間を思いやり、大切にし、守ろう。

けど、そんな大げさな言葉を並べるよりも

こう言った方が良いかもしれない。

『一緒にいよう』

それは時を超えても変わらない、約束だから…。



-end-
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