† Novel room †


□夏の夜空に咲き乱れて
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赤、青、黄色などの鮮やかな色彩で、ネオトピアの夜空に一輪の花が咲いた。
今夜はネオトピアで毎年の夏に開催されている花火大会で、花火を観賞しているほとんどが浴衣姿だった。


「たぁまやー!」

「何と美しいのだ……」

「これぞ夏の風物詩。何度見ても飽きんなぁ…」


それぞれが感嘆の息を洩らし、花火の散り際に見とれていたのだった。
キャプテンとマドナッグも、花火がどういう物なのかデータで分かっていつつもその幻想的な美しさに興味を示していた。
あれ以来、マドナッグは自分の誤解に気づいてキャプテンと和解し、未来には帰らずにSDGのメンバーとして一からやり直していた。自分を救ってくれた彼らに対しての恩義もあるが、一番の理由は過去に留まって新たな人生を歩む事だった。
もう、同じ過ちを繰り返さないために。
赤い花火が空を彩って静かに消えた後、マドナッグはキャプテンに話しかける。


「花火とは中々の表現方法ですね。キャプテンガンダム」

「ああ。爆熱丸が言うには、花火はまるで人の人生のようらしい。」

「と、言うと…?」


首を傾げたマドナッグに、キャプテンは穏やかな調子で答えた。
けれど、その表情は何かを憂うように哀しい。
それでも、爆熱丸が言っていた事を思い出しながら静かに語り始めた。


「生きて輝いて幸せになって、そして静かに散るのが一番の理想だと彼は言っていた。だから、自分に弟子が出来た時には花火のような人間に育てるのが夢だそうだ」

「つまり、花火のように輝いてこその人生という事ですか…」

「おそらく、そうなのだと思う。我々と違って、人の命には限りがある。もちろん、シュウトやけいこさん、ナナ、ハロ長官も」


一発、また一発と打ち上げられた花火を切なく見つめ、キャプテンはそこで言い切った。
人間の技術によって造られた自分達には、余程の事がない限り寿命という制限時間は存在しない。
でも人間や、ラクロアや天宮にいる生命を持ったモビルスーツ達は時を重ねていく毎に与えられた命を少しずつと削っていかなければならないのだ。
それでも彼らは、与えられた命を輝かせながら生きていく。
過ちや間違いをしてしまっても、生きている限り何度でもやり直せるのだから。
しばらく花火と人々の歓声が二人を包んだが、キャプテンはマドナッグの方に体を向けて言った。


「私は…、シュウトや爆熱丸、ゼロ達に出逢えたから変われた。“がんばれ”という、かけがえのない大切な言葉も覚えた。寿命がなくても、彼らといる事で心が温かくなる。だから君も、そう遠くない未来で大切だと思える存在が見つかる筈だ。」


そう言ってマドナッグに手を差し出し、そっと微笑む。
そして、前からマドナッグが待ち焦がれてきた感覚が胸に沁みわたっていった。


「……もう、君の手を決して離しはしない。一緒に、幸せの絶えない新しい未来を作っていこう。マドナッグ」

「………キャプテン……ッ」


うっすらと涙を浮かべながらも、すぐに笑顔になって差し出された手を強く握る。
もう、差し出されたこの手を絶対に離さない。そう言うように。


「私も同じです。…キャプテン、あなたが差し出してくれたこの手を、決して離しません」

「…そうか。それじゃあ、シュウト達の元へ行こう。けい子さんがスイカを切ってくれているらしい」

「はいっ!」


花火大会が終わりを告げ、ネオトピアの丘にある一軒の家には一つの灯りと、いくつもの笑顔が星空と共に、ネオトピアの夜を華やかせていた。
そこには、未来への希望を馳せた二人の戦士がいたのだから。


ーーー終ーーー
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