花宴 上
□山桜
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イタチと鬼鮫は仕事が一段落し、街の外れで昼食をとろうとしていた。
「イタチさん、そろそろ昼時ですね…店を探しましょう」
「いや、その必要はない」
イタチは月世が握ってくれたおむすびの重みを感じながら言った。
それは、幸福な重みだった。
「昼なら持ってきてある」
そういうと、イタチはベンチを見つけてそこに座った。
鬼鮫も横に腰を下ろす。
「弁当ですか?」
「おにぎりだ。お前のもあるらしい」
イタチは懐からハンカチの包みを取り出した。
広げて、ラップにくるまれたおにぎりを取り出すと鬼鮫に手渡す。
「それはありがたいですね。頂きます」
鬼鮫はラップをはずしておにぎりを口に入れた。
イタチも口をつける。米と昆布の味が広がり、その味の良さにイタチは満足した。
「これ食べたら、アジトに帰りますかねぇ」
「…いや、オレは用が残ってる。先に帰っていろ」
「そうですか?ではそうさせてもらいますよ」
月世のおにぎりを食べ終えた鬼鮫は、瞬身の術で姿を消す。
イタチはゆっくり立ち上がると、街の方へ引き返して行った。
「じゃあ私、そろそろ帰るね」
月世は立ち上がり、二人に別れを告げた。
アジトの外は昼下がりで、森の中は穏やかだ。
ガチャリと家の扉を開けると、丁度イタチも帰ってきたところらしい。
「おかえり、月世。どこか行ってたのか?」
「うん、ちょっとアジトにこれ取りにね」
月世は鞄に入れたマントを見せて言った。
「イタチもお帰り、お疲れ様」
月世は鞄からマントを取り出すと、
ハンガーにかけた。
すると、イタチが近付いてくる。
イタチは月世の手を取った。
急なことなので月世は少し驚いてイタチを見た。
「どうしたの?」
「お前に渡したいものがある」
そう言うと、イタチは月世の手を取ったままソファーに移動した。
「え、なんだろう…」
月世は少々困惑しながらも、イタチについていった。
二人の体はソファーに沈み込む。
月世はイタチの顔を見た。
「それで、なあに?」
イタチはポケットに手を入れる。
すっと取り出したそれは、きれいにラッピングされた小ぶりな箱だった。
イタチはそれを月世に手渡す。
「え、もしかしてプレゼント?」
月世は華やいだ笑顔になった。
「開けてみろ」
イタチもそんな月世の表情を見て微笑む。
受け取ったその箱は軽かった。
月世はプレゼントを開けるときの独特な興奮を味わいながら、するりとリボンをとく。
箱の蓋をそっと開けてみると、そこにはペアの指輪が入っていた。
「…これ…」
月世は突然舞い込んだ驚きと喜びに、言葉を詰まらせる。
「結婚指輪だ」
イタチは月世の手から箱を受け取ると、小さい方のリングを取り出した。
「月世、左手を俺の手に」
イタチは月世に掌を差し出す。
月世はゆっくりと彼の手に自らの左手を預けた。
イタチは月世の薬指を優しく持ち上げると、静かに指輪を通す。
それは月世の指によく馴染んだ。
「思った通りだ。よく似合っている」
イタチは満足そうに月世の指を見た。
月世は手をかざして指輪を眺める。
邪魔にならないデザインのそれに、きらりと一粒の宝石が埋め込まれていて、月世は一目でこの指輪が気に入った。
「…素敵、これ…ありがとう」
月世は愛おしげにイタチを見つめた。
「あ、じゃあ私も…」
そう言うと、月世は大きい指輪を手にとって、
イタチの左手をとる。
同じように、彼の指にも指輪をはめた。
「夫婦って感じだね」
月世は照れくさそうに、嬉しそうに笑う。
イタチもつられて微笑んだ。