花宴 上

□菖蒲
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「…おめでたですね」

翌日、街の病院の産婦人科を訪ねた二人は、椅子に座って医者の言葉を聞いていた。
医者はくっきりと笑顔を作ると、おめでとうございます、と言う。

「安定期に入るまでは、過度な運動は控えるようにして下さいね。
失礼ですがご職業は…?」

「あ、忍者です」

「そうですか。じゃあ、すぐ産休をとって下さいね。
チャクラも乱れがちになりますし、戦闘なんてもってのほかですから」

医者はそう言うと、また来て下さいね、と言って診察を終わらせた。


二人は帰り道を手を繋いで帰る。

「リーダーに報告しないとな」

「そうだね、流石に三日三晩の封印はできなくなっちゃうし…」 

イタチは頷くと、月世の手を一旦離す。
そして連絡用のカラスを口寄せして、腕に乗ったそれになにやらふきこんだ。
カラスは軽やかな羽音をたてて、雨隠れの方向の空に消えていく。

「これで伝わるだろう」

イタチは柔らかい視線を月世に向けると、再び彼女の手をとった。






雨隠れの里は、いつものようにしとしと雨が降っている。
雨が里を包んでいるようだ。
里を見渡せる塔の上から、空を眺めていた小南は小さな黒い塊を発見した。
それは近付くにつれ形を成し、見覚えのあるカラスになる。

「これはイタチの…何かしら」

小南は一旦カラスを窓際にとめると、ペインを呼びに部屋を出た。



「イタチのカラスだと…珍しいな」

ペインは部屋に入るなり、窓際に近寄ってカラスを覗き込む。
カラスの瞳に赤い写輪眼が光った。

「…幻術?」

後ろに立っていた小南が厳しい目でカラスを見たが、ペインが制する。
ペインはふ、と小さく笑った。

「何?」

「いや…まあ、自然な流れと言ったらそうだが…」

小南の方に振り返ったペインを、彼女は怪訝そうに眺める。
ペインはそんな小南にむけて口を開いた。

「イタチと月世に子供ができたらしい」

「…あら」

小南は少し驚いた表情をした後に、ペインと同じような表情で少し笑った。

「おめでたいわね」

「そうだな…」

ペインは少し黙ったあと、言葉を続ける。

「…イタチはもう長くない。恐らく年内に弟とケリをつけるだろう」

「…そうね…イタチがいなくなるということは、彼との約束も消滅することになる」

「ああ…木ノ葉に手出ししないという約束だな」

二人が黙ったので、沈黙が部屋を満たした。
雨の音が彼らの耳に纏わりつく。


「…月世はなんと言うかしら。
私達が…木ノ葉を攻撃することになったら」

「月世はイタチの思いをむげにするとは思えん…その時は…始末するしかないだろう」

「そうね。でも」

「話せばわかってくれるかもしれない」

ペインは波紋模様の瞳でチラリと小南を見た。

「…お前がきれい事か?小南」

「いえ。そういう訳じゃないけど…
痛みを知った世界は平和になる」

「月世の子は、その第一世代ということになる…
私は、月世にも、彼女の子にも平和の中で生きてほしい」

「だからわかってもらうわ。
たとえ無理にでも…その時は月世も相当私達を恨むかもしれない…でもいつかわかってくれるはずよ」


そう言うと、小南は僅かに微笑んだ。
それを見て、ペインも少々表情を和らげる。

「そういうところは変わらないな。
…お前は昔から優しい奴だ」

「…そんなことない」

小南はイタチのカラスを覗き込んで、囁くように言う。

「おめでとう」

カラスはそれを聞き届けると、再び空へ消えていった。
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