花宴 上
□京鹿子
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「イタチ、21歳おめでとう」
6月9日──
今日はイタチ21歳の誕生日だ。
イタチと月世は、カチンとグラスを合わせて乾杯した。
二人はバルコニーに椅子とサイドテーブルを持ち出している。
月明かりに照らされながらの晩酌は格別だった。
特に、今夜のようにおめでたい日なら尚更だ。
「ありがとう、月世」
イタチは美しい動作でグラスの中身を体に流し込む。
月世はその姿に惚れ惚れした。
「21歳かー、里を抜けた時は13歳だったから、随分遠くに来た感じするね」
月世はグラスの中の氷を覗き込みながら言った。
それは月光をうけて瑞々しくきらめいている。
「そうだな…あれからもう8年か」
二人の頬を、6月のぬるい夜風が撫でた。
「…ね、イタチ」
「なんだ?」
「これは提案なんだけど」
月世はグラスをサイドテーブルに置いた。
イタチの方に体を向ける。
「イタチは子供、ほしくない?」
その言葉に、イタチは少し目を見開いた。
月世の目は真剣だ。
「…子供か」
「うん。…大好きな人の子供だもん、産みたいよ」
イタチは少し黙った。
勿論、イタチも月世の子をその腕に抱きたい。
だが、障害が多すぎるように思われた。
今妊娠したら、月世は確実にひとりで育てなくてはならないだろう。
死期が近付いているのは、イタチ自身が最も感じていた。
さらに補欠メンバーとは言え、暁という危険な集団に身を置いていることもある。
だが逆に、月世と子を作るのは、今が最後のチャンスだろう。
イタチは葛藤していた。
月世と結婚しているとはいえ、この問題がある以上イタチは簡単には月世を妊娠させる訳にはいかなかった。
だから行為に及ぶ時には必ず避妊具を使用していたが、それは時に、月世を悲しませた──
イタチ、大好き──
だから……ね……? ──
ある夜にそう言った彼女は、めちゃくちゃにしたくなるほど可憐だったが、
その後の月世の人生を考えると、どうしてもできなかった。
イタチの気持ちがわからない月世でもないので、
彼女はなにも言わなかったが、
やはり寂しさを感じているようだった。