花宴 上

□鈴蘭
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アジトを出たイタチは、月世が待っている自宅に向かった。

歩きながら、どう伝えるか言葉を考える。
そんな風に歩いていると、あっという間に玄関にたどり着いた。

扉を開けると、月世がにこやかに迎えた。

「おかえり、イタチ。
今お茶入れたの。おだんごもあるし…食べない?」

月世はイタチからマントを受け取ってハンガーにかけた。

「ああ、頂こう」

イタチは椅子に座った。
テーブルにはだんごとお茶が並んでいる。
月世はお茶の入ったイタチの湯飲みを差し出した。
そのままイタチの向かいの席に座ると、お茶をすする。

「はぁ〜、おいしい」

月世はだんごに手を伸ばして口に入れた。

「…あれ、イタチ食べないの?珍しいね」

月世はいかにも美味しそうに食べている。

「…月世」

「んん?」

もぐもぐと口を動かしている月世を見つめると、
イタチは決心したように口を開いた。

「話がある…聞け」

「…うん」

イタチのただならぬ雰囲気を察して、
月世もいずまいを正してイタチの言葉を待った。


「月世、俺は…病だ。
もう治る見込みはない」

「………え……」

月世は驚いてイタチを見た。
イタチの美しい漆黒の目は、
いつもと変わらず冷静だった。

「黙っていてすまなかった」

月世は暫く押し黙った。

「もう…治らないの?」

月世の声は震えている。

「ああ…見込みはない。
自分の体だからな…死期はわかってしまうものだ」

「あと…どれくらいなの?」

「そうだな…もう数年だ。
あまり時間はない」

「…サスケが…
サスケが成長するまで、生きていられそう…なの?」

「延命すれば間に合うだろう…
俺はあいつの前以外では死にきれない」

「そう…」


「イタチ…どうして…
なんで、言ってくれなかったの?」


そう言った月世の表情は、痛々しいほど悲しかった。

「…お前のそういう顔を、見たくなかったからだ」

「できることならば、お前に知られたくなかった…
俺はサスケの前で死ななくてはならない…
これ以上何も背負ってほしくはなかった」

月世はイタチの言葉を聞いていると、
瞳が潤むのを感じた。

イタチは月世が泣くと思った。
悲嘆にくれて、儚げに泣くと思った。

しかし、月世が震える唇で紡いだ言葉は、
全く違うものだった。
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