花宴 上

□山桜
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イタチは少し歩いて、鬼鮫との合流地点にたどり着いた。
すでに鬼鮫は待っている。

「おはようございます、イタチさん」

鬼鮫はイタチの姿を見て挨拶した。

「あれ、月世はいないんですか?珍しい」

「…今日は来ない」

「そうですか。…では、行きますかねぇ」

二人は瞬身で姿を消した。





家事をひととおり済まし、紅茶を飲んで一休みしていた月世は、だんだん暇を持て余してきていた。

「…なんか暇だなあ…イタチもいないし任務もないし…」

ふと、ハンガーにかかっているイタチのマントが目に入った。
イタチと月世は、洗い替えとして2着持っている。

「あれ、なんかここほつれてる…?」

月世は席を立ち、イタチのマントをまじまじと見る。
よく見ると、マントは少し傷みが目立ってきていた。

「うーん、暇だしアジトに替えをもらいにいこうかな」

月世はいそいそと出かける準備をした。

外に出てみると、穏やかな陽気だ。
月世はのんびりとアジトまで歩いた。

すると、後ろの方から人の話し声が聞こえる。
月世は振り返ってその姿を確かめた。

大柄な男二人の人影が見える。 
目をこらすと、見覚えのある二人だ。

「あれは…飛段に角都さん?」

月世は立ち止まって二人を待つことにした。
声がどんどん近付いてくる。


「あー疲れたなァ…肩こっちまうぜ、ホント」

飛段はあい変わらず声が大きく、周りに響いている。

「そうだな。…あれは」

「あ?…あれ、月世ちゃんじゃねーかよォ!」

二人は月世に気付いたようで、飛段は大きく手を振った。

「こんにちはー、任務帰り?」

月世は二人と合流すると、アジトに向かって歩き出した。

「まーな、月世は何してんだァ?」

「私はマントの替えをもらいに行こうと思って」

「…そうか。今日はイタチはいないのか?」 

角都は月世の周りを見ながら言った。

「うん、なんか隠密行動したいからって…たぶんどこかの里の偵察とかじゃない?」

「ふーん、そういや月世がイタチの部下になってから結構経つよなァ」

「そうだねぇ…13歳のころ来たから、5年とちょっとかな」

アジトの入口が見えてくる。
三人は中に入っていった。

飛段と角都は設置してある椅子にどさりと座った。
二人は食事をとるらしい。
月世は装束が入っている箱を開け、イタチのサイズのものを探した。

「てことはよォ、イタチと結婚してそれぐらいってことだよなァ」

飛段は口に物を入れながらしゃべる。

「口から飛んでるぞ、飛段。
…しかしお前らがまさか結婚するとはな」

角都は静かに食べ物を口に運んだ。

「だよなァ、暁でそんなフツーの幸せ?っつーの?
を実践するやつがいるたぁな」

月世はいいサイズの物をみつけて、取り出して持ってきた鞄につめた。

「確かにね…二人は結婚とかしないの?」

月世は角都に椅子を勧められて席についた。

「オレはしねーなァ、ジャシン様命だからよォ」

飛段はペンダントに唇をつける。

「ふーん、結構いい男なのにもったいないね」

「マジ?やっぱそー思う?うん、オレ結構女には言い寄られるんだけどよォ、
そん時ジャシン教に勧誘するワケだ。するとよ、不思議と誰もついて来ねーんだよなァ、おかしいだろ?」

月世は最初飛段が冗談を言っているのかと思ったが、
どうやら真面目に言っているらしいので笑って受け流した。 

「角都さんは?」

「オレは金しか信じない。結婚など馬鹿らしいな」

「とか言ってるけどよォ」

飛段は相変わらず口一杯にものを詰めながら横槍を入れる。

「こいつこう見えて爺ちゃんだからな、今更結婚もねーだろ」

飛段はゲハハハ、と独特の笑い方をした。

「いや、まあほら…年の功というか、そういう趣味の女性もいると思うしさあ…」

「妙なフォローはやめろ、月世」

「ごめん」


月世は笑って返事をする。
こういう組織でも、仲間との連帯がある。
この飛段と角都にしても、デイダラとサソリにしても、
そしてイタチと鬼鮫にしても、なんだかんだお互いフォローし合っている。

きっと木ノ葉にいたらわかなかった──いや、わかろうともしなかったことだろう。
犯罪者、敵であっても、仲間を思う心があるということ。
その思いに、立場の違いは無いということ。


月世の心は、少し暖かくなる。
今や暁は、月世にとって里とも言えるものになっていたと言っても、過言ではないかもしれない。
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