花宴 上

□京鹿子
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切り立った岩の道──
砂隠れの入り口に三人は入った。
通路には累々と屍があり、その中に一人の男が立っている


(あいつがスパイか…)

月世は男を観察するように眺める。
サソリが歩み寄ると、男は地面に跪いた。

「御苦労…オレのこと思い出してくれた?」

「ハッ!もちろんですサソリ様!」

「そりゃそうだ
忘れたら術になんねーだろ…うん」

「記憶が戻れば忠実な部下だぜ。
…月世」

サソリは月世をちらりと見る。

「お前は術の資料を見たいんだろ?
こいつに案内してもらえ」

「はい!ありがとう、サソリさん」

月世はぱっと笑顔を浮かべて礼を言った。
サソリはフンとため息を付くと、男を見据える。

「由良、月世を書庫まで案内しろ」

「了解しました」

由良は恭しく返事をする。
四人は道を進み、里が一望できるポイントで立ち止まった。
デイダラが掌から鳥を造り出す。

「サソリの旦那は見てればいい…うん」

「月世は終わったら旦那と合流しな。オイラ達をまたせんじゃねーぜ?うん?」

「わかってるよ…デイダラこそ、くれぐれも隠密行動でお願いね」

一歩歩み出したデイダラの背中を、月世はじとっとした視線で見た。

「そのつもりだぜ、うん
里へは上から攻める」

掌の小鳥が変化し、デイダラはその背に身軽に飛び乗った。

「どうだい?この芸術的造形は…うん」

笠をとったデイダラは、自信たっぷりにサソリと月世をみる。

「あんまり待たせんなよ」

デイダラは砂隠れの空に消えていった。
それを見届けると、由良は月世に向き合う。

「月世様、行きましょう」

「うん…サソリさん、行ってきます」

「お前も早くしろ」

「はい!」 

二人は里内部へと姿を消した。




──────……




月世と由良の二人は、薄暗い室内に立っていた。
目の前には重厚な扉があり、由良がガチャリと鍵を開ける。

「チヨ様の秘術についての書物はここです。…ではごゆるりと」

「そんなゆるりとはできないけど…ありがとう、由良」

由良は軽く頭を下げると、瞬身で姿を消す。
月世は書庫へと足を踏み入れた。
本独特の香に包まれながら、月世は背表紙を指でなぞる。
めぼしいものを数冊取り出して、窓際にあった机に持ち出した。
携帯用の筆を取り出して、小振りの巻物に情報を書き取る。

「…傀儡に命を吹き込む術か…さすが相談役の名は伊達じゃない」

月世は夢中で筆を走らせた。
その時、外で大きな物音がした。

「!?」

月世は手を止めて窓から外を窺うと、上空に小さく見えるデイダラの鳥に、大量の砂が襲いかかっていた。

「あれは砂漠の我愛羅の…?
隠密行動って言ったのにな」

月世はため息をついて書取の作業に戻った。
最悪デイダラは十八番…C3を使う可能性もある。
月世は筆のスピードを上げた。


「よし、これだけ情報がもらえれば十分だね…」

月世は巻物を片付けると、警戒しながら扉を開けた。
そろそろデイダラもカタをつける頃と思われるので、はやくサソリのもとに急がねばならない。
月世は砂忍に変化すると、そろりと外に出た。
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