*.* 宝物 *.*

□父になる
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ー屯所の前に、赤子がいた。
男は訝しげに竹かごをのぞきこむ。ここは、壬生狼と呼ばれる新撰組屯所。先の男は、ちょうど今しがた昼の巡察から帰ったばかりの三番組組長斎籐一。
斎籐は、他の隊士達に先に戻るよう言いつけて。
再び竹かごを見やる。
道すがら、母親らしき女人の姿はなく。当然回りにも人影はない。
竹かごの中。
虎猫と共にスヤスヤと眠る赤子。ここが、狼の巣とも知らず。
ため息をついて、竹かごを持ち上げる。
よく…眠っているな。
どうしたものかと考えあぐねている所に、人の気配。
「なーにやってんの?一く……やだなぁ、もっとうまくやらなきゃー♪どーするの、その子。」
ニヤニヤと、人の悪そうな笑みを浮かべ。
そういう彼はとても楽しそうだ。
彼は沖田総司。一番組の組長であるが非常に困った人物でもある。
「言っておくが。俺の子ではない。」その様なことはしていないと、目で語る。
「あーはは。そんなの知ってるよー。言ってみただけー。でも、それにしては似てるよねー(笑)…で、どーするの、それ。」
「…副長に報告にいく。別件でも報告があるし、な。」
「そ?まーいいやぁ。興味ないしー。じゃーねー。」
手をヒラヒラさせながら、総司は屯所の外へ。
「出るのか?」
「ちょーっとね。報告行くなら早い方がいいよー。機嫌悪いからー。」
言いながら振り返り、柔らかな笑みを浮かべ手招きする。
後ろの気配。…雪村、か。
「お待たせしました、沖田さん!あ、斎藤さんお疲れ様です!」
軽やかな足取りと、声。
「総司と出掛けるのか?」
「はい!美味しいお団子やさんに連れていって貰うんです。許可も取っていただいて♪…えぇ!?斎藤さ…」
「俺の子ではない。」
手元を覗きこんでいう雪村の声を遮る。
「総司と一緒故大丈夫だとは思うが、充分気を付けていけ。」
それだけ言い残して、きびすを返す。
総司と、出掛ける…か。
モヤモヤを抱えたまま、副長室に急ぐ。
そのあとに起こる騒動など、考えもせず…
 
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