bear sweet fruit

□6.もう少し…
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 仄かなスタンドライトの明かりのみが光源のこの部屋で、彼女の肢体が艶かしく揺れる。
そう頻繁にとは言わぬが、俺達はあの日から片手で足りぬ程にはこのような夜を迎えていた。


 それの始まりは、いつも特に言葉などは交わさない。
例えば彼女の髪に触れている時、視線が絡みそっと身を寄せられ、こちらも自然と求められていることを察して応える、といった風に。


 一度交わってしまってからは、我が事ながら意外に過ぎる程行為を重ねることに抵抗は無かった。


誰かと交わるとは…なんだ、こんなにも簡単なことだったろうか。

俺は…朝倉が相手でなくともこうだったろうか…?


 獣のような息遣いで一心に腰を使い、組み敷いた小さな身体の乱れる様を眺めた。
彼女が快感から逃れようと頭を振ると、波打つ髪が行為により乱れたシーツの上を艶めいて泳ぐ。


「あっ…あぁ…先、輩っ…イイっ…!」


 こんなにも思うさま快楽を貪ったのは彼女との行為が初めてだった。

恋人とのそれでは幸福感や切なさを味わいこそすれ、目の眩むような、何もかも忘れられる程の快美感を教えてくれたのは紛れも無くこの小さな身体だ。

 初めて触れた時など、華奢に過ぎて壊してしまうのではないかと本気で心配になった。
細い腰は両手で掴むとともすれば指が周ってしまいそうな程に薄く頼りない。

比べたくなくとも感じてしまうものは致し方ないのだが…桜花は細くとも身長など俺と変わらぬくらいには高かったし、手足も同じ程の長さがあり、故に尚のことこの身体の小ささには困惑したのだ。


 これまでの経験では、桜花の身体に障ることを恐れ欲望の赴くままに女を抱いたことなど無かった俺は、初めて朝倉に触れた時、さらに小さく頼りない身を前に理性の限り己を抑え込んでいた。

しかし、“自分は決して壊れはしないから我慢などしないで欲しい”ともどかしげに告げられ、彼女には俺と桜花の事情を見透かされているのだと悟る。

…大方、仲の良い総司あたりからでも聞いたのだろう…彼女が病に伏していたことを。


 本人がそう言うのだからと意を決して突き上げてみれば、彼女は俺の危惧など軽く払拭し良い反応を返して悦んで見せた。

その一見頼りなげな小さな身体は、俺の欲望を受け止めるに十分なしなやかさを持ち合わせていたらしい。

そうと知った後はもはや夢中で快楽を貪り、その夜は初めて知るまどろむような倦怠感の中共に眠りについた。



 ───最近気付いたことだが、行為の最中、朝倉は決して俺と目を合わせぬ。

視線がぶつかり掛けると慌てて目を逸らすか、瞼を閉じるか。


それに気付いた時は何故かと不思議に思ったが…いや、思えば当然のことか。

彼女は俺と交わっているのではなく、俺の知らぬ“サイトウ先輩”とやらを思い浮かべているのだろうから。


「先輩…っ」


 顔を横向け首筋を晒して、濡れた声の合間にうわ言の如くそう零す朝倉。

思わず己のことと錯覚するような呼び方をしながら、閉じられた瞼からそうではないことを知らされ僅かに苛立ちのような不快感を覚える。

───この感覚はなんだ…?
己ではない男を想うことなど端から知っていただろうに。
何かのプライドか…?


 原因不明のその不快感を払拭しようと俺は彼女の身体を繋がったままくるりと裏返した。
身体の柔らかい彼女の脚は易々と俺の身体を超えて四つ這いの体勢になる。


「あっ…?先輩なに…」


「こちらの方がいいだろう?互いに…」


───顔は見えぬ方が。


 戸惑って振り向こうとする彼女にそう匂わせて囁くと、己の身を背に添わすように圧し掛かり、好ましい艶髪に口付けその奥の首筋を舐め上げた。
朝倉は驚いたように甘い声を上げ、身を震わせる。

…成る程、項への愛撫が好みらしい。


 反応に気を良くし繰り返しそこへの刺激を与えれば、彼女も抽挿する自身を震えるように締め上げて応え、俺の顔を快楽に歪ませた。


 汗ばみ香りの増した髪と項に顔をつけその甘い空気を吸い込みながら、この抱き方は悪くないと思う。

この体位ならば目を逸らそうとする彼女を見ることもない…
…“サイトウ”とやらの存在を思い知らされることもないのだから。


 
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