アクマでキミのモノ!
□3.振りまわさないで
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沖田総司が家を出て行くのと入れ違いではじめが自宅へ戻ってきた。
「──雅!?…来ているのか?」
少し驚いた様子のはじめが二階へ上がって来る音が聞こえる。
多分玄関の靴を見てそう言ったのね。
ドアを開けると、部屋に私しかいないことを確認してほっと息を吐くはじめ。
「…一人か?総司は…」
「入れ違いで帰ったの。はじめ〜…ばれちゃったよ、私達が幼馴染だって…」
いくら好きな人だからっていつでもにこにこ取り繕ってなんていられなくて、つい正直に不満顔で文句を言ってしまう。
すると、はじめはしまったという表情で慌てて頭を下げた。
「す…すまぬ…!急にうちに来ることになった故…土方家の玄関にはうちへ来ぬようメモを貼ったのだが…!」
「そっか、ごめんね…うちになんて寄らなかったもん…。
直接はじめのとこに来ちゃったから」
「そ…そうか……大事なかったか…?」
……ううん、大事あった…。
でも、沖田総司との取り引きを思い返して首を振る。
気が重いけど、ここからは…明日のために布石しておかないと。
私は密かに溜め息を吐き、思ってもないことを話し始めた。
「授業中の悪戯が目についていたけど、悪いばっかりの人じゃないみたいだね…沖田総司って」
すると、訝しげにしながらもはじめは頷いてくれる。
「?……そう…だな。確かに……何も総司は悪人というわけではない」
そっか…私のことを心配するが故にこれまで色々忠告してくれていたけれど、きっと沖田総司とはじめは特別仲が悪いという訳じゃないんだろうな。
「あのね……明日学校で急に耳にして困らないように話しておきたいんだけど…
…私、沖田総司とお付き合いすることになったの」
思い切って、でも世間話をするくらいの軽いトーンでそう告げると、はじめは驚きのあまり息が詰まったのか、一瞬げほっとむせた。
そして、普段表情に変化の表れにくい彼にしては分かり易過ぎるくらいに目を見開いてこちらを眺めてくる。
「…な…何故!?」
「えっ…それは付き合ってくれって言われて…悪い人じゃなさそうだし……」
はじめの真剣な表情に少し怯んでそう答えると、両肩を掴んで鋭い口調で諭される。
「雅!!…これまで女子校育ちであった雅にとっては断り慣れておらぬ告白だろうが、求められたからといって応えねばならないということは…」
「そんなこと分かってるよ…!」
…ありがとう、はじめ。
反対してくれてすごく嬉しい。
だけど、正論を述べられて「じゃあお付き合いはやっぱり考え直すね」って話の流れになっても困るから……私ははじめに反発するしかなかった。
「そうか…しかし雅、総司は…悪く言いたくはないが手が早…」
「それも承知してるってば…!!
だから、先ずはお付き合いするのは校内にいる時だけってことにしたの」
「………は?」
はじめは明らかに理解出来ないことを言われたという風に眉を顰める。
「だからね、沖田総司と校外で会ったりはしない。
まずは校内にいる時だけ彼女として接して貰うことにしたの。
…ね、それなら危険はないでしょ?」
私の言葉にはじめは動揺を隠さず歯切れの悪い言葉を紡ぐ。
「い…いや……しかし、それで総司は構わぬと…?」
「うん、言ったよ。だからはじめ、安心してね?
私だって初めてのことで不安だもん……はじめの目が届かない所で沖田総司と一緒にいたりはしないから」
「……ああ…そう、か……俺の目の届く所に二人がいるのであれば、雅も安心、だな…」
「うん、はじめがいてくれて心強い。
沖田総司が無理矢理変なことしようとしたら止めてね?」
「……ああ、雅が嫌がることならば俺が止めに入ってやろう…」
そう言うはじめが少し元気が無いように感じるのは気のせいかな。
もしも…万が一にも、私のことを特別に想ってくれているなら、このタイミングで何か告げてくれたりするものじゃないかな…ってほんの少しだけ期待してた。
だって、まだ私が沖田総司を好きだとか言ってるわけじゃないんだし、「総司などやめて俺にしろ」的なことを言って貰えたらなぁ…なんて…。
だけどそんなことは勿論起こる筈もなくて。
その割に今のはじめが心ここに在らずといった風なのは……
突然幼馴染の私が自分の友達と付き合うことになった事実に、流石のはじめも戸惑っているということなのかしら……。
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