アクマでキミのモノ!

□4.前期試験
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はじめに“もう部屋へ来るな”と言われてしまった。


いつでも一番傍にいてくれた。
物心ついてからこれまで、一度だって拒否されたことなんか無かったのに…

“そういう女が好きではない”とまで言われてしまった。


はじめは毎日部屋へ通う私を見てそんなに不快だったのかな……

恋人に対してなんて無遠慮で、思い遣りのない女だと呆れていたのかな……


私は自室に戻ってからもひたすら泣き続けた。

今後はじめの傍に行けないことも寂しかったけれど、それよりも…『もう二人で過ごすのは嫌だ』と女子として拒絶されたことが悲しかった。


はじめ…どうしてなの。
私はどうしたらいいの?

家で過ごす時には沖田総司も居なくて、私達はこれまで通りだった筈なのに…

どうしてこんなに気持ちまで遠く離れてしまったのかな…?


こんなことになるなんて思ってもみなかった……



* * *



「雅?…何やってんだ、お前…」


朝から冷蔵庫で冷やしたスプーンを両目に当ててダイニングチェアにじっと座っている私にお兄ちゃんが呆れ声で話し掛けてきた。

…煩いなぁ…もう。


「昨夜、映画見て泣き過ぎちゃったの。腫れを鎮めてるのよ」


「ふぅん…おわっ、何だこりゃ!何本冷やしてんだよおめぇは!?」


冷蔵庫を開ける音と共に驚きの声をあげるお兄ちゃん。
その中にはうちのありったけのスプーンが十本程度冷やしてあるから、驚くのもまぁ無理はないけど。

いいでしょ、別に…朝からカレー食べるわけでもあるまいし、大きなスプーンなんて使わないでしょ?


「全部要るから冷やしといて!…もう、お兄ちゃん煩いよ」


煩ぇとは何だよ、とぶつぶつ言いながらコーヒーメーカーをセットし、新聞を開く音がする。


…はぁ…学園で沖田総司に会うのが憂鬱だわ……

さっさと告白しなかったのは意気地の無い自分が悪いとはいえ、こんなややこしい嘘を吐く羽目になったのは間違いなくあいつの面白半分の思いつきが元凶なんだから。

いつまでこんな馬鹿馬鹿しいことを続けなきゃいけないのかしら…。
沖田総司め…早く飽きればいいのに……

もうストーカー被害とか落ち着いただろうし、こんな事をやめるのはあいつの気持ち一つでどうにでもなる筈なんじゃないの?


「…憎たらしい」


「おい、まだ文句言ってんのかよ…。
…ほらよ、換えのスプーン持ってきてやるからさっさと飯食っちまえ」


「………うん、ありがと」


しまった…今のは別にお兄ちゃんに言ったわけじゃなかったんだけどなぁ。

でも、そう言って「じゃあ一体誰のことだよ」って突っ込まれても答えようがないから、私は黙ってスプーンを受け取った。

これって完全にとばっちりよね…ごめんね、お兄ちゃん。



* * *



学園ではじめに会うのも私は正直緊張したんだけど、それは杞憂に終わり、はじめは別に素っ気ない態度を取ったりはしなかった。

…というより、学園では元からそんなに親しげに接していなかったから、そのままっていうか…。

でも、それでもほっとしたの。
全く話もしたくないくらい呆れられちゃったとかそんなんじゃないんだって分かったから。


一週間、二週間と過ぎるうちに、はじめがどんどん特別に思えて仕方ない。

廊下で見かけられること、生徒会室で不意に二人きりになれること……そんな些細なことが特別で嬉しくて仕方ないの。


これまでの私って、なんて恵まれた環境でぬるま湯に浸かっていたのかしら…。

毎日彼の部屋に自由に遊びに行けるなんて、その上二人きりで数時間を過ごせるなんて、どんなに特別なことだったのか…今になって痛い程感じていた。


はじめ…はじめもそう思ってくれていたらいいのにな。

これまで近過ぎて女子に数えられなかったけれど、離れてみたら一人の女の子として見て貰えた、なんてハッピーエンドを夢見ちゃ駄目かしら…?


沖田総司は相変わらずちょっかいを掛けて来ていたけれど、私は毎日そんなことばかりを考えて過ごしていた。


───気がつけば七月が訪れ、前期試験とその直後の球技祭、そして夏休みを目前に控えていた。


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