アクマでキミのモノ!

□5.デートじゃないから
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 この目で確かめてしまうと、思ったよりショックが大きかったらしい。

一位ではなかった…まぁそれはいいとして、あの総得点はいつもに比べてやはり相当低くてショックだわ…。

 それにしても、はじめは初めての定期テストで二位だなんて流石ね…!

勿論、三位の沖田総司もこんなに上位に食い込んでくるなんて予想以上だわ…!
きっと四位以下の人達は相当ショックよね、三位以内に転入生の男子が二人も入ってくるとは思ってもみなかったでしょうし…

 あぁ、それより同点って…!あの賭けは一体どうなるのかしら…?


私はふらふらと教室に入った。


「…雅ちゃーん…掲示板見た…?」


 自席に着こうとした際、既に着席していた沖田総司に少し元気のない声で話し掛けられたんだけど…
私は彼をまじまじと眺めて瞬いた。


 ───なにこれ、沖田総司が…!

すっかり尻尾と耳の垂れた犬の如く情けない顔でこちらを見上げているの。

いつも自信たっぷりで意地悪な笑みを浮かべている癖に…
何その情けない顔の可愛さったら…!!
貴方、捨てられた仔犬…!?


 何を隠そう私は犬猫が大好きなのよ。
あの真っ直ぐ見上げる綺麗な目ったら可愛くて可愛くて…

…今の彼に対してそれに近い可愛さを感じるって私どうしたの!
あ、まだ熱が上がったのかしら?


「……………。」


「え、もしかしてまだ熱があるの?」


 目を閉じて掌で額の熱を計る私に沖田総司も心配そうに尋ねてきた。

…いえ、熱はないらしい。
ということは私の目の錯覚…気の迷い…


「…あ、いえ。ごめんなさい、大丈夫でした」


「良かった。…でさ、掲示板見た…?」


「ええ、沖田さん凄いですね!
慣れている私達でも難しいのに、初めての定期テストであんな結果…
正直ここまでとは思っていなくて、本当に驚きました」


 私が素直な気持ちをそう伝えると、沖田総司は子供みたいにぱっと笑顔になり顔を上げた。


「え、本当!雅ちゃんがそう思う!?」


 きらきらと見上げる翡翠の目に私はまたしても衝撃を受け、少し身を引いてしまう。

───なにこれ、やだ…また可愛い!


「え?…えぇ、思います…」


「そっか〜!勝てなかったから情けないやって思ってたけど、褒めて貰えたからまぁいっか。
あ〜雅ちゃんはやっぱ手強いなぁ…!僕もそれなりに頑張ったんだけどな。
雅ちゃんなんて呼び出し食らう程奮わない結果だったのに、同点なんてさぁ…
やっぱり凄いよね」


「…あ…はは…ありがとうございます」


 呼び出しは、単純に点数だけというより貴方の所為でもあったんだけど…まぁいいわ。
先生方にも上手く誤魔化せたことだし。

私は席に着くと、一応気になったのであの件については確認を取ることにした。


「ねぇ…賭けは、引き分けで無効ということでいいのよね?」


 “賭け”だなんて人聞きが悪いと思い、私が口許に手を添え内緒話としてそっと尋ねると、沖田総司の肩がぴくりと跳ねた。

そして、こちらを向いた彼の顔にはいつもの不敵な笑みが浮かんでいる。


 ちょっと…さっきの純真そうな顔は何処に行ったのよ…!?

私が戸惑って目を離せずにいると、彼も顔を寄せてきて口許に手を添えた。
賭けについての返事だと思って彼の言葉に大人しく耳を傾けていると…


「今の凄くイイね…雅ちゃんの囁き声。ぞくぞくしちゃったよ…」


「は…!?」


 言われたことにも恥ずかしさから頬が熱くなったけれど…それより今の言い方は何なのよ…!

他校の彼女にならともかく、私にまで色気を振り撒かないで!?
いやらしい言い方をして…今の絶対にわざと耳元に息を吹き掛けたでしょう!


「…セクハラはやめて下さい…!」


 大声では言えなかったので小声で訴えると、彼はにやにやと怪しい笑みを浮かべ「…それも耳元で聞かせて?」と調子に乗って近付いて来る。


 ───前言撤回よ。
さっきのはやはり気の迷いか、目の錯覚か、沖田総司の罠ね…!

この人はいくら可愛い着ぐるみを着たって、狼でしかないみたい。
しかも、結局賭けはどうなったの…!?


 そうは思ったけれど、あんな反応を返されてはここでもう一度同じことをする勇気はなくて…
私は止む無く、通常の声量で話せるタイミングになるまで大人しく待つことにした。


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