アクマでキミのモノ!

□6.叶ったもの、敵わぬもの
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 沖田総司は変わったのかしら。

彼が転入してきた春には、まさかこうなるとは思ってもみなかったわ───



「会長、第二学年、A組、沖田総司」


 きゃあ、と控えめながらも黄色い声と拍手が講堂に広がって、彼が生徒会長になったことを生徒の皆が喜んでいることが伺える。


───後期生徒会役員選挙。

勿論、指名は投票の結果だから、彼が望まれて当選したことは明白なのだけど。

だけどまさか、あの沖田総司が会長…!
転入初日には全校集会にすら姿を見せない人だったのに…!


「副会長、第二学年、A組、土方雅。
並びに、第二学年、B組、斎藤一」


 壇上に三人並ぶと、沖田総司がこちらをちらりと見て私達に囁いた。


「生徒会でもよろしく」


「…ええ、よろしくお願いします」


「………。」


 私は同様に小さな声で返し、はじめは無言で頷くに止めた。

今の沖田総司の人気は半端ではない。
はじめも相当だと思うけれど、沖田総司はとにかく華やかで目立つ。

前期試験に始まり、球技祭、剣道部の夏の大会、そして先日行われた文化祭。
どれも彼は大活躍し、美しいルックスも相俟って学園にその名を轟かせていた。



* * *



 ───球技祭の2日間。
男子達…特に沖田総司とはじめは、我が校にかつてない衝撃を与えたわよね。


 そもそも我が聖桜花学園はこれまで共学ですらなく、球技祭は女子だけの行事だったんだもの。

ましてや我が校は幼稚舎からエスカレーター式の完全なる女子校。
中等部、高等部へ上がる際も中途での一般入試による入学など募集していないし、運動部で他校との試合に行く機会のある子以外は、男子と共にスポーツをする機会すらこれまで無い。


 かく言う私もその一人。

男子の身体能力がこうまで女子とかけ離れているとは、知識はあっても目の当たりにすると衝撃だったわ。


 一言で言えば……つまり、その…格好良くて驚いてしまった。

第一学年の男子生徒達や、第二学年の他クラスの転入男子も目立ってはいたけれど、はじめと沖田総司の目立ち方は群を抜いていたように思う。


 球技祭はクラス対抗で総合得点を競う為、下級生が上級生クラスより上位に立つことも有り得る。
その仕組み上、男女混合で競技を行うと今年は男子の居るクラスと居ないクラスで歴然とした差が出てしまうため、主催の委員と生徒会では頭を悩ますことになった。


 その結果、止むを得ず競技は男女別で行い、クラス得点への付与は男子同士の競技結果を加点する形となったの。

つまり、例えば個人競技なら沖田総司はA組、そして男子が居ないG組の代表として競技に参加し、彼が勝った際の加点はその2クラス同時に付与されるといった具合に。

男子はクラスの枠を超えて様々なクラスの代表として参加した為、応援する女子の方は他クラス・異学年の生徒達とも仲間意識が芽生え、球技祭は大変な盛り上がりを見せた。


 バレーボールも、3on3も、テニスも、フットサルも…
男子ならではの運動神経、間近に見る迫力あるスピード感。

普段目にする機会のない、好戦的なはじめの表情も真剣な沖田総司の表情も、全校の女子生徒を魅了するに十分だった。

それに、二人は同じ剣道部ということもあるのか特にライバル心を燃やしているようで、敵対すれば双璧といった具合でいい勝負をしていたけれど、第二学年男子対第一学年男子で同チームとなった際には素晴らしいチームプレーを見せもして、その麗しい二人のギャップもさらに女子達に溜め息を吐かせた。


 そうして、そもそも生徒会役員として注目されていたはじめに比べ、一躍時の人となった沖田総司。

すぐにそのまま夏休みに突入すると、次は夏の大会ではじめと共にインターハイにまで出場するし、彼の活躍は止まることを知らない。


 9月末に行われる文化祭では第一学年の一部の男子からバンドを一緒に組んで欲しいと熱烈に誘われていた。
親しみ易いキャラもあってか、球技祭の後からは下級生男子からも凄く人気がある。

「面倒臭いよ、絶対嫌だ」って零していたけれど、「あんなに熱心に誘ってくれているんだから」と勧めてみたらその気になってしまったらしい。


 文化祭では例年通り我が校に隣接する男子校との交流があり、向こうの学校からもステージを披露する生徒が何組もいた。
すると、それがうちの学園の男子生徒達のライバル心に火を点けたらしく、沖田総司率いる我が校のバンドも圧巻のステージを披露した。

まず、沖田総司は観客の女子を煽るのが上手い。
流石は遊び人…慣れているのかしら…


 ただ、ステージから呼ばれて唐突に私まで壇上に上げられた時には流石に何てことをしてくれるのかと眩暈を覚えたけれど…

そもそもお付き合いをしていると学園の生徒達に思われている私達。
ステージに上がったからと言って別にいかがわしいことをする訳でもないし、ほら、友情出演みたいなものでしょ、皆が楽しんでくれるのならと考えて何とか耐えたわ…。


 ───そういう訳で、我が校の文化祭に男子が参加すること自体は珍しくなかったけれど、そんな中でも沖田総司は驚く程目立っていた。



 成績優秀、運動神経も抜群で、武道にも優れ、見目麗しく、親しみやすいキャラクター。

翌10月の後期生徒会役員選挙へ立候補すると、こうして彼が転入してからの半年間を振り返ってみれば当然の結果にも思えたけれど……沖田総司は次期生徒会役員会長に見事選出されたのだった。


 
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