短編 (幕末)
□寝言
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明け方、声がして目が覚めた。
自室ではない天井が目に入る。
まだ、薄闇に包まれた部屋。
ボンヤリと覚め切らない頭で、記憶の糸を手繰り寄せる。
「・・・てめえ、待ちやがれ、総司!」
何事かと、すぐ横から発せられた声にびっくりして目をやる。
眉間に皺を寄せ目をつぶる、土方さん。
・・・寝言、だよね?
土方さんの寝言なんて初めて聞いた・・・。
寝相もいいし、いびきも滅多にかかないのに・・・。
夢の中でも、沖田さんを追いかけているのかと、笑みがこぼれる。
「そいつを返しやがれ!!」
また、豊玉発句集、持ち出されちゃったんだ・・・。
そう考えていると、次の言葉に笑いが引っ込んだ。
「そいつは・・・千鶴だけは、誰にも渡さねえ!」
・・・私?!
まだ、眉間に皺を寄せている土方さんに、そっと抱きついた。
普段はそんな事言ってくれないのに。
夢の中だけなんて・・・ズルい。
でも・・・。
夢の中でも、私のことを必要としてくれる------。
寄り添った胸も心も暖かくて。
まだ夢の中の土方さんに、そっと囁いた。
「だいすき」
私はずっとずっと、あなたのそばを離れません。
覚悟しておいて下さいね。
完