短編 (幕末)

□寝言
1ページ/1ページ


明け方、声がして目が覚めた。

自室ではない天井が目に入る。


まだ、薄闇に包まれた部屋。

ボンヤリと覚め切らない頭で、記憶の糸を手繰り寄せる。



「・・・てめえ、待ちやがれ、総司!」



何事かと、すぐ横から発せられた声にびっくりして目をやる。

眉間に皺を寄せ目をつぶる、土方さん。



・・・寝言、だよね?



土方さんの寝言なんて初めて聞いた・・・。

寝相もいいし、いびきも滅多にかかないのに・・・。


夢の中でも、沖田さんを追いかけているのかと、笑みがこぼれる。



「そいつを返しやがれ!!」



また、豊玉発句集、持ち出されちゃったんだ・・・。

そう考えていると、次の言葉に笑いが引っ込んだ。



「そいつは・・・千鶴だけは、誰にも渡さねえ!」



・・・私?!



まだ、眉間に皺を寄せている土方さんに、そっと抱きついた。


普段はそんな事言ってくれないのに。

夢の中だけなんて・・・ズルい。



でも・・・。



夢の中でも、私のことを必要としてくれる------。

寄り添った胸も心も暖かくて。


まだ夢の中の土方さんに、そっと囁いた。



「だいすき」



私はずっとずっと、あなたのそばを離れません。
覚悟しておいて下さいね。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ