私の執事になりなさい!

□執事 斎藤の場合 その3
1ページ/5ページ






だいぶ、斉藤さんとの関係にも慣れて来たと思う。

あれから、斉藤さんは私の希望通り、部屋に入る時も、
その他(きっと本来の主従関係なら当たり前)の事も、確認をとってくれるようになった。

相変わらず、口数は少ないから、未だに良く分からない事も多いけれど・・・。

せっかく側にいてもらうのだから、もう少し仲良くなりたい・・・なんて、思ってるのは私だけなんだろうな・・・。



今も私の斜め後ろで静かに控えているその人を、ちらりと見て、そっとため息をつく。

あくまでも自分の気配を消し、私の邪魔にならないよう、
でも私がなにかして欲しい時にはさり気なく先回りしてやってくれる。

どこからどう見ても、立派な執事さんだと思う。
それこそ、あの土方さんにも負けないくらいに。




「・・・斉藤さんって、土方さんに似てますね。なんか、雰囲気とか・・・。」




何気なくそう言って振り返ると、斉藤さんが瞳を見開いて私を見つめていた。

(あれ・・・なんか言っちゃいけないこと言ったかな?)

心配になって見つめ返すと、不意にその瞳がふっと細められ、唇が緩やかに弧を描いた。




「お嬢様にそう言って頂けるとは光栄です。私は執事としてのあの方を尊敬しているので・・・。
いつか土方さんのような執事になるのが私の夢です。」



普段見たこともないような笑顔に、鼓動が跳ねる。




「・・・そうなんですね。でも、斉藤さんも完璧な執事さんだと思います。」



やっと返した言葉に、斉藤さんはすぐにいつもの真面目な面持ちに戻る。




「いえ、私はまだまだです。もっと色々勉強しなければ、到底あの方には追いつけません。」

「・・・斉藤さんは何故、執事になったんですか?」



私はふと思いついて聞いてみる。




「私のことなど聞かれても、お嬢様には退屈なだけかと・・・。
そろそろ、テーブルマナーのレッスンのお時間です。ダイニングの方へ参りましょう。」


チラリと腕時計を確認した斉藤さんがいつもの落ち着いた声で言う。



「・・・あ、そうですね。」



何だか上手くはぐらかされてしまったような気がする。
もしかして、あまり聞かれたくないのかな?
どちらにせよ、斉藤さんは私に自分のことを話したがらない。
私と彼の間には見えない境界線があるのだ。

”出来ればもっと、友達のように接して欲しい”なんて、
私がその境界線の内側に入れる事なんて、私がお嬢様である限りありえない事なのだろう。


解っていることなのに・・・何故か心がズキリと痛んだ。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ