終焉

□不明
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次の日も幸村に断りをいれて氷空は向日の看病にきていた。

この合宿でも、従兄弟と氷帝、立海の選手は氷空にとって特別に大切だ。それはほかの学校の人も大切ではないわけではないが、こればかりは理屈では割り切れるものではない。

「岳人、具合どう……?」

氷空が声を掛けると向日は薄く目を開けるだけで、さらに感情が鈍くなっているようだった。血色がなく、寝返りをするのも億劫だというような印象を感じさせる。

「岳人……」
「氷空……?」

氷空が傍に来たのにも、たった今気が付いたかのような反応に氷空は何故かこみあげてきそうな涙を我慢し、向日の手を握った。泣いてはダメだ、岳人を不安にさせてしまうから…そう思いながら必死に涙を堪える。だが、氷空は自身の不安で押しつぶされてしまいそうだった。そんなことはないと思っていてもどうしても考えてしまう。向日も、桃城の後を追ってしまうのではないかと。

そのとき、唐突に向日の部屋の戸が開く音が聞こえた。驚いて氷空が振り向くと立っていたのは柳だった。

「柳くん……どうしたの?」
「いや、お前の様子を見に来たんだ」

柳の言葉に氷空はふっと目を伏せる。

「私は何ともないのに……ねえ、岳人を看てあげられない?私にはどうすればいいのか分からなくて…」
「俺でも役者不足な事には変わりないぞ?」

そう言いながらも柳は向日のベッドサイドで彼の手を右手で持ち脈をとった。そして下まぶたを引いたり、口を開けさせる。どうやら、瞼の内や口腔内の色を見ているようだ。

「除脈が出ているようだな……だが、貧血らしい症状だ。それ以上はわからないな……こればかりは医者を連れてくるしかないだろう」
「そっか、柳くんに分からないことはこの合宿に来てる人間にはわからないだろうし……」
「随分と俺を立てるな、俺にも分からないことはあるぞ?」

そう言いながら柳は氷空の髪を撫でる。そして小さな声で氷空に問うた。

「誰かこういう事に詳しい奴、知ってるか?」
「……わからない、忍足のお父さんがお医者様だってことは知ってるけど、きっと忍足は詳しくないだろうし」
「医者か、そういえば大石が医者志望だったな。望みは薄いがあとで訪ねてみることにしよう」
「お願い……桃城君のことがあるから余計に岳人が心配で……」

縋る様な氷空の視線に柳は氷空を見つめながら頷いた。

それから柳と氷空はしばらく向日を看た後立海の宿舎へと戻った。青白い頬をした向日を一人置いていくのは氷空にとって気が引けたが、貧血なら問題ないだろうということで向日を忍足に頼み、2人は宿舎へ戻ることにしたのだった。


知識がないのも又、罪である。
 

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