終焉

□身内
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翌日、朝から越前の部屋を氷空は訪問した。何もしないわけにはいかなかったのだ、もう誰も桃城や向日の様にはなって欲しくなかった。目を瞑れば二人の事が思い浮かぶ。何もしないことが一番怖かった。

「リョーマ君、具合はどう?」
「……」

越前は薄く目を開くだけで、ほかには何も反応しなかった。先日のような生意気さえ、彼の口からはでてこない。向日とまったく変わらない病状。それが氷空の不安を掻きたてた。

「リョーマ君……」

呼吸の荒い越前の表情を見ながらどうか治ってくれるように、そう祈ることしか氷空にできることは無かった。だが、感染者はとどまることを知らずじわりじわりと確実に患者を増やしていった。そしてそれはついに立海大の懐にも入り込んだ。

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「あか、や、が……」

柳の言葉に氷空はガンと頭を打たれたように何も考えられなくなった。やはり、それは確実に氷空たちを侵食していたのだ。
もう何名も、その病で命を落とし人数も減り始めていた。

自分の元へそれが忍び寄ってくることなど、分かっていたはずなのに何故か、そんなはずはないと思い込んでいた。自分たちだけは大丈夫だと。

「赤也……」

憔悴仕切った目で氷空は赤也を見つめた。疲れもあったがなにより、精神的ダメージが大きかった。

何せ、昨日越前と神尾を埋葬したばかりなのだ。昨日も涙が枯れるほど泣いた。
合宿メンバー総計43人のうち6人がこの病を発症している。

「ごめんね……気づいてあげられなくて。
いつも、一緒にいたのに……。ごめんね」

いつものように無邪気に氷空に笑いかける赤也はここにはいない。彼は苦しそうに息をし、目を開けるもの億劫そうだった。

切原の手をとり氷空はただただ、彼の回復を祈る。どうすればいいのだろうか、原因は?感染経路は?何もかも分からなくて、みな途方にくれていた。

「氷空、せんぱ……」
「赤也……!」

切原の声が氷空の耳に入り、氷空ははっと赤也の顔を見つめた。彼の特徴的な髪を掻き上げ額に触れる。やはり肌はひんやりと冷たかった。

「赤也……どうかしたの?」

震える唇で氷空はあくまでも動揺を悟られないようにゆっくりと赤也に語りかける。

「怠い……」
「大丈夫……?傍にいるから……何か欲しいものはない?」

思わず切原の手を取り額に当てる。明らかに体温が低い。こんなに気温は高いというのに。
その時氷空は切原の肘窩に二つの赤い痕が並んでいるのに気が付いた。

「なに……これ?」

赤く膿んだようになっているそれは、異常なまでに存在感があった。ダニ?蚊?それとも他の何か?氷空の中で様々な推測が飛び交う。

だが結局答えは出ずしばらくしたあと新たに発症したという鳳の見舞いに向かうため、
切原をジャッカルに任せ、氷空は部屋を後にした。
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