終焉

□電話
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「赤也……大丈夫かな」

氷空はベッドの上に寝転がり、不安げに呟いた。時刻は23時を回ろうとしてる、さすがにこの時間は女1人でうろうろしている時間ではないと幸村に部屋に戻されてしまったのだ。

確かに、赤也の容体は日に日に悪くはなっているが先ほどまでは安定していた。今、氷空ができることは無いだろう。

「もう、やだ……」

氷空が目に涙を浮かべながら小さく言う。日に日に増える感染者、比例して死人も増えた。全員が目に見えて憔悴してきている。精神が参ってしまうのもきっと時間の問題だろう。氷空は思わず目を右手で覆う、その時部屋の内線電話が音を立てた。

(まさか……)

背筋にさっと戦慄が走る。刹那、向日の青白い顔が氷空の胸をよぎった。不安に掻き立てられる胸を押さえながら恐る恐る受話器を手に取り、耳に当てる。

「もしもし、不二氷空ですけど……」
「……こんばんは、日吉です」

掛けてきたのは予想外の相手だった。氷空はほっと胸を撫で下ろすとベッドに腰掛ける。

「日吉?どうしたの、こんな時間に」
「氷空さんがそろそろやつれているんじゃないかと思って。迷惑だったら切りましょうか?」

素っ気ない日吉の態度にふっと思わず氷空は笑みを零す。相手の声色から明らかにこちらを心配して掛けてきたのだろうと氷空は悟った。

「大丈夫だよ、迷惑じゃない。……ありがとう、心配してくれて。いつもだったら寝てるんじゃない?この時間」
「べ、別に俺は暑くて寝苦しかったから電話しただけです。氷空さんのことが心配だったわけじゃありません」
「いいの、私が勝手に感謝してるだけだから。
そうだ、日吉。何か怪談話でもしてくれない?面白いやつ」

氷帝にいたころ、2人とも怪談話が好きなこともあってかよく氷空は日吉と怪談話をしていたのだ。日吉はふっと鼻で笑うと言葉を続ける。

「眠れなくなってもしりませんよ?」
「眠れなくなったら外に散歩に出るからいいよ。……あんまり眠りたくもないし」
「…その時はちゃんと俺に言ってくださいよ。
1人で出歩かれて迷子になられたら面倒ですから」
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