いつまでもふたりで

□3月7日
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明日はアイツの……

見慣れた写真立てが目に留まり、跡部景吾はキーボードをたたく手を止めた。

彼は今24歳、立派な社会人として世へ踏み出し、将来的には次期財閥の総統として世界へ君臨するための今はまだ準備段階だと言えた。
少年のころから変わらずに端正な顔立ちは色香を増し、精神的にも未だ世間知らずな面は残っているがあの頃から持ちえた柔軟な思考力と判断力で壁にぶつかることはあまりなかった。

そして今も実質仕事中であり、デスクに置かれているコンピューターには様々な言語の言葉が打ち出されている。彼は光源のせいか、少しちかちかとする目を休めようと目頭を押さえ次に手を止める原因となった写真立てに目を向けた。

その写真はある人物とふたりで写った時の物だった。

写真の中の自分もその人物も笑顔が溢れ、とても幸せそうに見える。いや、彼の記憶では幸せだったはずだ。跡部は写真立てを手に取る、そしてゆっくりと少年だったころの自分の隣で笑っている写真の中の少女の顔を指でなぞった。

「澪……」

明日はアイツの所へ行こう。
跡部は胸の中でそう思い、フッと頬を緩ませる。そっと薬指にシンプルなシルバーリングを嵌めている右手で自分の胸元に触れた。彼の目が静かに閉じる。

想えばアイツの所へ行くのは久しぶりだ、前に行ったのは年末だっただろうか。
何を持って行ってやろう……、と久しぶりに彼女に会いにゆく感覚はいつまでも変わりない。
そうやってしばらく考えを巡らせていたかと思うと、写真立てを置き、目の前のコンピューターへ向かった。

明日は早めに仕事を切り上げて彼女に会いに行こうと決め、跡部は口元に軽く笑みを浮かべた。
 

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